# 35日目 ページ17
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「これは何?」
『…眉ブラシ』
「またブラシ?さっきもあったじゃん」
『それはアイシャドウブラシ!もー、さっきから何!?』
うだるような暑さから解放され、秋の色が微かに顔を覗かせる9月。今日は深みオレンジメイクでもしようかなとコスメを並べ始めた矢先に、眠そうに転がり込んできた__牛沢。
スケジュールアプリを何度見ても、今日は撮影の予定がない完全なオフの日。何しにきたの?と聞いても、うん、と眠そうに目を擦るだけ。
で、埒があかないからとりあえず家にあげたら、これ。
まだファンデーションすら纏っていない私の顔をまじまじと見ては、手近にある化粧品を手に取っては、これ何?どう使うの?とまるで子供のように私に尋ねてくる。
別に良いんだよ、良いんだけども。
『最近よく家来るよね』
「まあ暇だからな」
『暇を理由にアラサーすっぴん女子の家に朝っぱらから転がり込むな』
「それすっぴんなの?」
少し驚いたような顔の牛沢はほっといて、私はいつものコスメを手に取る。
時折不思議そうにリップやアイシャドウを物珍しそうに見ては尋ねてくる牛沢を横目に、着々と眉、目元と順番に仕上げていく感覚は、今更だけどなんだかくすぐったい。
「Aって以外とまつ毛長いよな」
『よく言われる。奥二重だからあんま目立たないんだよね』
「え、そこからまだ伸ばすの?……うわぁ、長っ」
『ねえ面白いからやめてよ、人のメイクの実況するの(笑)』
「つい人気実況者の性が出たわ」
__日常の中の些細な出来事が、楽しいと感じたのは久々だった。
何だかちょっと悔しかったから、真面目な顔して言ってんじゃないよ、と言って片方の頬に七色に光るハイライトをくるくると乗せてやった。今何したの!?とめんどくさそうに言ったから鏡を見せてやると、頬が虹色に光っていることに気づいて感動していた。(笑)
「すげえ何これ」
『これはハイライト。これちゃんとした方が顔が立体的に見えるよ』
「へえ…なるほどね、」
『…ふふ、どう?朝見た時と比べて、可愛くなったでしょ?私』
いつもの実況の時みたいに、おどけてドヤ顔で言ったつもりだった。
…そのはずだったんだけど、鏡から顔を上げた牛沢は、__すごく真面目な顔をしてて。
「……Aは可愛いよ、ずっと」
いつになく真面目な表情の牛沢は、_間違いなく、私の"何か"を変えようとしていた。
私が消えるまで、あと65日。
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sssato310(プロフ) - コメント失礼します。このお話すごく好きで堪らなくて8回くらい読み返してます。もう更新されないのでしょうか、、、アピスさんの作品とても好きなので更新されるの楽しみにしています! (2022年4月2日 0時) (レス) id: 5031cdb017 (このIDを非表示/違反報告)
かけたま - コメント失礼します。いや、面白すぎて凄いです。ごめんなさい語彙力無くて。^_^でもすっごい感情とか、情景が伝わってきて毎回楽しいです…。これからも楽しみにしてますねしてますね!!!! (2021年10月21日 21時) (レス) @page17 id: a9aad67263 (このIDを非表示/違反報告)
アピス(プロフ) - ゆのまるさん» ゆのまる様、コメントありがとうございます。勿体無いお言葉まで頂いて、本当に嬉しいです。これからもゆっくり更新となりますが、何卒宜しくお願い申し上げます。 (2021年6月10日 16時) (レス) id: 7d62638449 (このIDを非表示/違反報告)
ゆのまる(プロフ) - はじめまして、コメント失礼致します…!作者様の言葉の選び方が本当に素敵で読む度、お話に惹き込まれてます(; ;)そして、更新ありがとうございます!今後の展開がとても気になるので、無理せず頑張ってください…!応援してます! (2021年6月10日 0時) (レス) id: 587b75f302 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アピス | 作成日時:2021年5月14日 3時