# 思い出せない ページ11
.(牛沢side)
不意に握り直したビールのぬるさが、時の経過を告げる。どのくらい、こうしていたんだろうか。
今日は珍しく家に1人なので、せっかくなら好きなことをしようと思ったはずなのに。結局いつも通り実況を撮って適当に料理を作って風呂に入って、ベランダで酒を飲むという今に至る。
「…昔はもっと美味かったのになぁ」
まんまるな月に向かって嘆くと、どこかで犬が吠える。昔は、___Aと出会う前は、こうやって1人で飲むビールもまた格別に美味かったのに、今となっては一人で好きな銘柄の缶を開けてもちびちびと飲むだけで全く進まないし、何より楽しくない。適当に零した一言に、鈴が鳴るように笑いながらツッコんでくれるアイツがいないと。
そう思いながら、不味くなったビールを一口煽る。舌からふわりと離れる苦味が、俺の記憶を呼び起こす。
『牛沢さん、……じゃなくて、うっしーっていっつもビールばっかり飲んでる、よね』
タメでいいよ、と言った俺を辿々しく呼ぶ姿を、今も鮮明に思い出す。あの時はまだAは高校生で、ベランダでビールを飲む俺の隣にジュースを持って背伸びしていた。
「まあ、好きだからね」
『ふーん…おじさんみたい』
「うるせえ誰がジジイだ」
『そこまで言ってないわ』
ケラケラ笑う彼女の制服のリボンが揺れるたび、悪いことをしてるような気持ちになった。優等生をオトナの世界にそっと誘ってるような、そんな気分。
この時の俺は、Aの隣にほぼずっと居たつもりだったというか、居た。最初は色恋の気持ちは一切なく、ほぼ親心みたいなものだったと思う。
隣に居る俺と、Aと常に真正面から向き合うガッチさんが保護者。Aと背中合わせでそっと寄り添うのがレトルト、そんな俺たちを後ろから見て様々なフォローをしてくれたのがフジだった、___はずなのに。
俺たちの前を歩くキヨに、Aが追いつこうとし始めたのは、俺がAに手を伸ばすのを辞めたのは、いつのことだっけ。
いつからだろう。
優等生のふりをした小悪魔に、俺は恋をしていた。
___今でも、当時の彼女の声や笑顔は思い出せるのに、いつも思い出せないことが、たった一つ。
『ねえ、ビールって美味しい？』
少しハスキーな甘い声の問いに、俺は何て答えたんだっけ。
思い出せないまま、夜は更けていく。
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もか(プロフ) - 更新楽しみにしてました！ありがとうございますm(_ _)m (2021年4月28日 8時) (
レス) id: f8135edeab (このIDを非表示/違反報告)
みんと - 尊死……夢主ちゃんとみんなの出会いのお話めちゃくちゃに刺さりました…！！尊すぎてしんどいです(；▽；) (2021年3月14日 0時) (レス) id: 9b2c0e9200 (このIDを非表示/違反報告)
アピス(プロフ) - やとさん» やとさん、前回に続きコメントありがとうございます！！ゲロ甘を意識して書かせていただいておりますので、そう言って頂けて嬉しいです…相変わらずマイペース更新ですが宜しくお願い致します。 (2021年3月12日 22時) (レス) id: 7d62638449 (このIDを非表示/違反報告)
やと(プロフ) - 続編おめでとうございます、ハニーマスタードに続きこちらのオーロラソースの更新もめちゃめちゃ楽しみにしてます！！！夢主ちゃんに男性陣がみんな優しくてほっこりします………(T_T)（笑） (2021年3月12日 21時) (レス) id: b0fb75ed70 (このIDを非表示/違反報告)
アピス(プロフ) - みんとさん» みんとさん、またまたコメントありがとうございます！もちろん、rtさんのお話も複数仕込み中ですので…またまた楽しみにしていただけたらなと思います！いつもご愛読ありがとうございます^_^ (2021年3月12日 11時) (レス) id: 7d62638449 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：アピス | 作成日時：2021年3月12日 11時
