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「あの…、聡…くん…////」
「上履きまで駄目にされて、もっと怒るとか、泣くとかしてもいいのに」
「だ、大丈夫だよ」
「あのさ…なんとなくだけど、もしかして、あんな嫌がらせされたのはAちゃん自身のせいだとか思ってる?」
「え…?」
「あんなことされたのに、誰のことも悪く言わないから、なんとなくそう思ったんだけどさ」
「それ…は…」
「やっぱり。なんでそんなこと思うの?Aちゃんこそ何も悪くないのに」
「で、でも、嫌がらせしてきた子は、あたしが中島くんと聡くんの間でフラフラしているのが、嫌だったんだと思うの」
それこそ上履きを駄目にしてしまうくらいに…。
それは、どれほど嫌だったんだろう…
「でもさ…、そう簡単に答え出せるようなことじゃないでしょ?」
「え…?」
「中島くんか、俺か」
「あ…、う…ん。呆れるよね…」
「いいんだよ、そんなのは別に。中島くんに取られて、俺にはもうチャンスはないって思ってたんだから。悩んでくれるのは嬉しいことだよ」
聡くんの指が髪に触れた。
優しい手が、少しぎこちなく、いい子いい子するように後頭部を撫でる。
恋人同士のような状況に、改めて頬が熱くなり、緊張する。
「呆れたりしないから、自分を卑下しちゃダメ。
Aちゃんがちゃんと考えて答えを出す人だっていうのは俺も、多分中島くんもわかってるから。Aちゃんのこと信頼してるから、俺も中島くんも待てるんだ」
「聡…くん…」
そんなふうに思ってたんだ。
中島くんか聡くんかなんて、学校や予備校で出されるどんな難問よりも難しい。
考えても考えても、答えが見つからない。
自分でも、答えを出せるんだろうかと不安になるぐらいなのに、聡くんは信じて待っていてくれる。中島くんも、だからあの時 " ちゃんと考えて答えを出せばいい " と言ってくれたんだろうか。
「あ、ありがとう、聡くん…。ちゃんと考える…」
「うん。その結果、俺を選んでほしいけどね」
そう言うと聡くんは、最後にぎゅうっとあたしを抱きしめて、身体を離した。
ほんの数秒だったけど、頬に当たった聡くんの胸から、速くて大きな鼓動が聴こえた。
何でもない顔して笑ってるのに、心臓があんなになるくらい緊張しながら、あたしを想ってくれている聡くん。
その真っ直ぐな想いが、泣きそうなくらい嬉しかった。
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作者名:しおん | 作成日時:2017年10月29日 21時