検索窓
今日:11 hit、昨日:8 hit、合計:143,840 hit

にゃんが三十九匹 ページ39






私は二人が元の世界に戻る鍵は台風なのではないか、と話をした。

「台風が、鍵、ですか…」


千寿郎くんは眉を下げて、不安そうにテレビを見つめる。


「…なるほど。うむ、確かにそれは考えられるな。だが台風だけではなく加えて、何か他の条件もあるのかもしれない」



静かに杏寿郎さんは頷きながら言う。
その淡々とした様子に自分だけが動揺し、落ち込んでいるのだと分かり、何かがチクチクと胸を刺し、少し悲しかった。

彼は何も悪くない、ただの私のわがままで。
私はいつからこんなにわがままになってしまったのだろう。




「A」



あれこれと考え込んでいた私を一気に引き上げるような声で杏寿郎さんが私の名前を呼んだ。


しっかりと私の目を見て、安心させるように頭を撫でた。



「そろそろ寝よう」



私を立ち上がらせ、手を握ったまま、歩き出した。






***








「おやすみ」



優しい声だった。
ベッドに横になった私は、優しく額を撫でられた。
彼を見ると、穏やかな顔をしていた。


寝る時に頭を撫でてくれる杏寿郎さん。
あなたに会うまでは、ずっと一人で寝ていた。
母を早くに亡くし、父も仕事で忙しいのは分かっていた。わがままなんて言えない。だからずっとずっといつも一人で誰からも「おやすみ」なんて言われなくて。



『おやすみ、A』


幼き頃───まだ母が生きていた頃─
そう、あの時…
優しく頭を撫でてくれて、お腹あたりを落ち着かせるようにポンポンと優しく押さえるように…



お母さんに会いたいなぁ。
会いたくてたまらない。



この気持ちにずっと蓋をしていた。思い出したくなかった。実現不可能な淡い願いを持つことを私は自分自身に言い聞かせ、決して許さなかった。

思い出したら寂しさに気づいてしまうから。なぜなら思い出したら、わがままが溢れて止まらなくなってしまうから。

今まで一人で充分だった。
一人で寝ても寂しくなんてなかった。どうでもよかった。
何も感じない。


だけど、思い出して、温かみに触れて、あろう事か慣れてしまった。



──また私、独りになるんだ




「いかないで、杏寿郎さん」



彼の手を握って、もう片方の手で自身の目元を隠した。




「ごめんなさい。いい歳した大人が…情けないよね…」

「情けなくなんかない。Aはもっと甘えてもいいはずだ。もっとわがままになってもいい」


ゆっくり手を離そうとすると強く握り返された。

にゃんが四十匹→←にゃんが三十八匹



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (441 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
675人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

(プロフ) - グミさん» わぁぁ!!グミさま〜!!お優しいコメントをありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。グミさまの心を少しでもホワホワさせることができたのなら幸いです!こちらこそ長い間お付き合い下さりありがとうございました!<(_ _*)> (1月30日 11時) (レス) id: fa76bf1609 (このIDを非表示/違反報告)
グミ - 途中まで読んでいて、でも忙しくて全然読めてなかったのですが、ちらっと除くと完結、と出ていたので一気読みしてしまいました!2人と別れる時、涙が溢れてきました。でも!再会できて良かったです!!しあわせになって、良かった…!コメント失礼しましたm(*_ _)m (1月30日 6時) (レス) @page50 id: 9cb77040e4 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - maxiahさん» お久しぶりです!maxiah様!(*´∇`)心が浄化されましたか!それは光栄の極みです!!長い間おやすみしていたのにも関わらずお優しいお言葉胸にしみます(*/-\*)素敵なコメントをありがとうございました!m(_ _)m (2022年4月7日 17時) (レス) id: fa76bf1609 (このIDを非表示/違反報告)
maxiah(プロフ) - お久しぶりに拝見させていただきました。はぁ心が浄化されます。好きです。 (2022年4月6日 22時) (レス) @page37 id: f2fb6597c0 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 墨染さん» わぁぁ!墨染さまっ!こんばんは!こちらこそ、墨染さまとお話する時は安らぎの一時です!いつもありがとうございますm(_ _)mこれからも、墨染さまを幸せにできるようなお話作りを頑張ります…!(*´▽`*) (2021年7月6日 22時) (レス) id: fa76bf1609 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2021年1月23日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。