その漆 火事 ページ8
「桜花、やめろ」
「いってぇっ」
［あっちが悪い］
「わぁったから下がれ……あとで説教な」
わたくしは声を持たぬ故、表情で伝える場面が数多くあります。
故に癖になってしまったのでしょう。
理不尽、嫌、などなど不快に感じるとすぐにむっとしてしまうのでございました。
紺炉にちょいちょいと手をこまねかれた桜花は、彼の背の裏に隠れた。
確かに普通の手段では紅丸は納得しないとは言ったが、こうなるとは思っていなかったのだ。
「……火事と喧嘩は江戸の華ってか」
が、案外紅丸はやる気であったように見えた。
途端、鐘が鳴り響く。
「火事だー！火事だー！」
「焔人！？」
「若が縁起でもない事言うから」
「くそ……俺が戻って来る前に消え失せろ」
紅丸は暖簾をくぐりそこを後にした。
目前から、幾つか民家を挟んで大きな黒煙が見える。
「どいつだ」
「派手好きの勘太郎が」
「さっき飲みに誘われたばっかなんだが」
紅丸は上着を脱ぎ、纏を受け取った。
祭りの準備は完了した。
「三丁目の勘太郎が焔人になっちいまったぁ」
「エイヤ！ソイヤ！エイヤ！ソイヤ！」
何事もないか確認する為、桜花は一足先に勘太郎がいる場所の近くの民家の屋根にいた。
紅丸が纏を振り始めた。
祈りが響く皇国式の鎮魂とは違い、祭りのように騒ぐ光景に第八は困惑していた。
「何をする気だ？」
「始めるぞ、祭りだ！」
そう言うと紅丸は発火能力を使って投げた纏に着火、操作能力を使って勘太郎がいる近くの民家をほぼ壊した。
壊した瞬間、人々は盛り上がった。
しかし第八は当然、理解不能だった。
「民家ぁ！？」
立てかけられていたもう一本の纏を使い、紅丸は空を飛ぶ。
勘太郎がいる場所まで数秒もかからなかった。
「飛んでったぞ」
「あの大隊長の能力は何なんだ……」
「そこにいたかクソ爺！！」
(あ、やばい。巻き込まれる)
そう思い、下がる桜花。
追加で四本の纏が上空を通り過ぎていった。
下がるのが見えていたのか、彼女がいた場所まで紅丸は吹き飛ばした。
「また街を……」
「家はいくらでも直せばいい。
でも焔人になっちまった勘太郎の命は、これで最後なんだ」
お婆さんの言葉に森羅は沈黙した。
「どうなってんだ、着火させて炎の操作までしてるのか」
「あの纏になにか仕掛けがあるのかも……」
「若は第三世代の発火能力、第二世代の炎の操作能力の両方が使える」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：文字変換 | 作成日時：2020年9月7日 10時
