【炎炎ノ消防隊】番人に梔子 (ページ6)

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その伍　大福ページ6

浅草と言ったらなにを思い浮かべますか？
　大門？人形焼き？それとも風神、雷神？

　人それぞれでございましょうが、わたくしが思い浮かべるのは人々でございました。

「らっしゃーい、らっしゃーい」
「よぉ紅ちゃん！」
「こんにちは、若旦那」

「紅丸ちゃん、大福作ったから持っていきなさい」

「ああ？甘いもんはいつもいらねぇって言ってんだろ、ばばぁ」

　先にある人形焼きを買っていた桜花が猛スピードで戻って来る。
　しかし手は出さない。
　お婆さんと一緒に紅丸をじっと見る。

「作りすぎだ……」

　結局、貰った。
　優しいねぇ、と書き記した手帳を見せられると桜花の頭部を握りつぶすほどの力で掴んだ。

［優しくない］

「よぉ、紅ちゃん！三日ぶりだ元気にしてるか！」

　返答がないが、もう浅草の人達は慣れていた。
　紅丸が立ち止まっているうちに、風呂敷から大福を拝借する桜花。
　ちょろちょろしているから、見守っている通りの人達に笑われている。

［しーっ、バレちゃう！］

　うんうんと頷く人々。
　これも浅草の人達は慣れている。

「今晩は酒に付き合えよ！！」

「……っち、うるせぇ」

　行き着く先は第七の詰め所。
　『七』と書かれた大きな纏が飾られている。

「ばばぁの大福だ。食いたい奴は勝手に食え」

　玄関に置かれた風呂敷。
　後ろからひょっこり顔を出した桜花は、上がるついでに十個ほど引き抜いて口に頬張る。
　そのまま二階へ駆け上がる。
　第八が来るからだ。

「死にぞこないのババアの大福大好き」
「大福作らねぇババアは死んだ方がマシだぜ」

「「うっひぇひぇひぇひぇ」」

　酷い言いようだ。
　この双子の言いようは紅丸からの受け売りとしか言いようがない。

「ヒナタ、ヒカゲ。お前らな」

「「なんだ若、文句なら受け付けてねぇぞ」」

「全部、若の受け売りでっせ」

「文句なら受け付けねぇぞ」
「ほらそれ」

［若が口悪いからヒカゲもヒナタもこんな子に……っ］

「お前もだろうが」

　ぐすり、とウソ泣きをする桜花。
　彼女は二階の自室に隠してあったあの日のアドバイスのページを燃やして、戻ってきたのだ。

「大福うめー、こりゃ死にぞこないの最後の輝きだぜ」
「うっひぇひぇ～、ババアの死にびかりうめぇー」

「俺はあそこまで言わねぇよ」

　え、嘘でしょ？と疑いの目を向ける。
　まぁ当然、容赦なく関節技を決められるのだが。