外伝 煙草の煙を吹きかければ〜下〜 ページ41
酒は飲んでも、呑まれるな。
なんて言葉があるように、酒を水のように飲んだとしても酒に振り回されてはいけない。
例えば間違って、意味も知らず煙草の煙を吹きかけれてしまったりするから。
「ケホ」
桜花が吹いた煙が紅丸の顔を通り過ぎていく。
煙たさに咳き込めば、桜花は笑った。
「ガキ〜」
「テメェのほうが年下だろうが」
「私の歳は大体で決められたので実際は年上かもよ〜？」
酒瓶が四本、五本と徐々にその数を増やし、転がっていく。
破壊王と番人、いつも酒で勝つのは番人の方だった。
「あああい、あたしの勝ち〜」
ニッパリと笑いながら悔しそうにゲソを噛む紅丸。
桜花は胸の穴を掻きむしりながら、余った酒瓶を開けた。
「足りねぇのかよ」
「いやぁ酒でもないと捻くれ者の私は素直でいられないらしくてねぇ」
「誰が言ったんだ、んなこと」
「紺炉ぉ〜んふふふ」
めっちゃ愉快に笑ってる。
その笑みのせいでまるで平凡な子供のように見える。
「じゃー素直な素直な桜花さんよー」
「ああああああいよぉおお」
「俺んこと好きかぁ？」
んふふふ、と笑う。
酔うといつも笑う。そして酔いが醒め始める頃に泣き始める。
だから今、彼女は泣き始めた。
そして一言いった。
だから紅丸は煙草の煙を吹きかけた。
その後の記憶は一切なかった。
「テメェら……」
目を覚ましてみれば般若のような顔をした紺炉がいた。
紅丸は辺りを見回した。
縁側。昨日桜花と飲み勝負をしたその縁側で、彼らは雑魚寝していた。
「酒を六本持ち出した上に桜花と雑魚寝だぁ？
妹以前に病人ってぇいうのに何してんだ、紅」
モゾモゾと羽織っていた着物からひょっこり顔を出す桜花。
顔面蒼白とは彼女の今の顔を指すためにあるようなほど、顔面蒼白だった。
不機嫌そうな顔をして一言。
「吐く……」
「「まてまてまてまてまて」」
その日一日桜花は寝込んだ。
酒を飲もうと誘った紅丸は紺炉に二時間コースの説教をくらった。
あの時言った言葉が頭の隅と心の半分くらいを占めた。
毎日同じ屋根の下で飲み食いし、人生の半分は共に過ごした。
くだらないことで笑ったり、時にはいたずらもして説教をくらった。
そしていつも。
「全く……1やったら100かえすなよ」
同業者のことは引っかかるが、とりあえず、その言葉が在れば少しは可能性があった。
『じゃなきゃ此処にいないよ、んふふふ』
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作者名：文字変換 | 作成日時：2020年9月7日 10時
