その弐拾玖 仮説 ページ30
ーーー十五年前。
薊夫婦と桜花の兄が無残に殺された。
それは不運なことに桜花の誕生日だった。
その後の足取りは一切掴めず、歴史という記録に浮き出る紙魚のように、神出鬼没だった。
ある時は詐欺師。
ある時は傭兵。
ある時は大量殺人鬼。
またある時はデリーター。
おかしいだろう？
彼女の人生はたったの二十年。そのほとんどを浅草で過ごしていた。
だというのに誰も『何者かだった』桜花を知らない。
何故なら薊夫婦には記録上、息子しかいない。
彼女の母親とされている薊鏡花の出生は何処にも記録されていない。
しかし薊はまるで何かを探すために記録の節目に現れた。
其処にはーーー桜花と瓜二人の鬼がいた。
つまり僕の仮説によるけれど、
薊桜花もとい新門桜花は薊鏡花が母なのではなく、薊鏡花が子なのではないか。
「と考えてみたのだけれどどうかな？」
「それだと私は一体何歳で何者かという答えには辿り着いていないぞ？」
「其処なんだよなぁっ」
リヒトは大きく背伸びをした。
桜花から与えられた宿題の答えを未だに導き出せず苦悩していた。
「なんだ来てたのかデリーター」
「お邪魔してるよジョーカー」
玄関からビニール袋をぶら下げて入ってくる男、ジョーカー。
予想だにしていなかった客のせいでいつの間にか缶ビールが二本消えていた。
「おいおい飲むならその分買ってこいよ」
「ほぉう、こんなにも良い酒を持ってきたのに缶ビールかぁ、じゃあこれは私が」
「いらないとは言ってない」
「じゃあ缶ビールは補充しなくていいよな？」
完敗したジョーカーは大人しく両手を上げた。
リヒトにはつまみの袋詰めを、ジョーカーにはお高い日本酒を贈った。
桜花はまた本棚から分厚い本を取り出し、読み始めた。
「にしても驚いたよ、まだ浅草にいたなんて、それも最強の消防官の妹とは」
「似合ってるだろ？」
「「全然」」
「お前ら何でそこは息ぴったりなのよ。
ジョーカーはとりあえず風呂入ってきなさいよ」
「あーい」
リヒトはあながち仮説は間違えていないように思えた。
ジョーカーに答えを聞いてしまうのが一番手取り早いのだが、敢えてそれはしなかった。
「ヒント」
「人間が禁忌としていること」
「薊、禁忌……クローンなど人間の創造。一体何の関係が」
「人はずる賢くてね。見つかりたくないものは徹底的に隠す、又は騙す、誤認させる。
例えば、天照、とかね」
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作者名：文字変換 | 作成日時：2020年9月7日 10時
