その拾捌 何処 ページ19
わたくしはあまり星が好きではございません。
何故なら名前が多すぎるからでございます。
夏の大三角形、何処ですか。
アルタイル、どれですか。
人の数だけ星があると申しますが、その度に学者の方は苦労なさるのでしょう。
ですがもし、星が片手で数えられる程しか見えなくなったら、悲しいのでございましょう。
「無残だなぁ。いつの間にそんな忠義やら主従やらに縛られたんだ？」
「……」
「お前はもっとくらぁい底に沈んだ目をして、やりたいことやってたじゃねぇか。
デリーターよぉ」
「……」
「このまま息の根止めてやろうか」
そう言い煙の中、ジョーカーは桜花の首に触れた。
抜き取られた何かがあった部分は真っ黒な灰となり、耐えきれなかった身体にヒビが入っていた。
「……やってみろ……あの世まで、追いかけるぞ……ゴミが」
今にも消えそうな灯を、消すくらいなら最後まで燃やしてやる勢いで桜花はジョーカーの胸倉を掴んだ。
「じゃぁなぁデリーター、来世は良い人生をっだっけか……ゔふ」
空に火柱が見える。
複数の纏が火を灯して焔人を抑えつける。
紅丸が放った日輪は、鬼の身体を崩壊させることは出来なかった。
ならばともう一度打ち込む。
するとまるで空間そのものがぽっかりと空いたように、焔人の身体は抉られ、灰となった。
(綺麗な暁……流石若様)
紅丸によって鬼は鎮魂。
祭りは終わり、一夜の殴り合いは終息したのだった。
「紺炉」
「若、桜花と一緒じゃないんですかい？」
「あ？紺炉と一緒じゃねぇのか？」
修復作業が進む中、桜花の行方だけが分からずにいた。
第八のメンバーも修復作業中に桜花を見ることはなく、トビたちもまた見なかった。
そして紺炉は櫓に紅丸が来る前、桜花が来たことを話した。
途端、紅丸は駆け出した。
消火活動を行っていたトビに、焔人が出現した場所を確認し、その場所をあたった。
「なに……してんだよっ」
見つけた桜花は、虚ろな目をして柱に寄りかかっていた。
「……わ……かさ」
幻覚を見ているのか、手を空へ伸ばしている。
紅丸はその手をとった。
「帰るぞ……帰るぞ」
その無残な姿に目を瞑りたくなった。
桜花を担いで紅丸は詰め所へと歩き出した。
医者の爺さんならなんとかなる。
桜花ならすぐに起き上がって大福食って。
でもどう見たってこれは。
「けほっ、若様は心配性ね。大丈夫よ」
そう聞こえたかった。
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作者名：文字変換 | 作成日時：2020年9月7日 10時
