夜の月 ページ12
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リヒト様の予約は今日の最後の枠だ。
営業終了までは何時間かある。
江戸時代の花魁は床に着くまで何回も指名しなければいけなかったが、
この現世吉原では一回の金額が花魁レベルだと数百万かかる代わりにその制限がない。
なのでもう1人今日は相手しなければならない。
「おお、あれが月島屋の蜜月か」
「いやはや美しい。
濡れたような黒髪と金色の瞳。
この世のものでは無いような美しさだな。」
「あの強気な美人を組み敷いてみたいものですな。」
「はっはっは」
店の前の座敷に座り、煙管を蒸す。
ゲスい会話を聞くことももう慣れた。
外には街の中心にある光源が月のように青白く輝いている。
ふっと、その光源がゆらめいたように見え、影が濃くなった気がする。
俺にはひとつ、他の人にない力がある。
それはこの世のものとは思えないものが見えること。
濃くなった影に何かの影が実態を持って潜んでいるように見える。
(あそこか…)
それはゆっくりと息を吸うようにゆらゆらと揺れている。
しかし動く気配がないのでまだ害をなすことがないだろうと判断した。
「蜜月。指名だ。」
『あい』
指名だ。
俺は店の軒先から入る間際に、おまじないをする。
子供の頃からやっていたおまじない。
兄さん方のお客様から教えてもらった。
「闇より出でて闇より黒く、その汚れを禊ぎ祓え」
心の中であの影が入ってこないように願いながら唱える。
ふっと揺らぎが落ち着いた気がする。
俺は店に入った。
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作者名:夜兎 | 作成日時:2023年9月5日 22時