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Aside
「私は当主様に報告を、美桜はお部屋の準備をして参ります。
そんなに時間はかからないと思いますので、この庭で散策でもなさっていてください。」
案内されたのは一際大きな建物。ここが本邸というらしい。
塀で囲まれたその一角、季節の花が咲く庭で待つことにした。
手入れの行き届いた色とりどりの草花と、スイスイと泳ぐ綺麗な錦鯉を眺めていた。
汗ばむ陽気に池を泳ぐ鯉がとても気持ちよさそうに見える。
ツイーツイと水面を進むアメンボを数えていた。
待って数分、ヒソヒソと女性が話す声が聞こえた。
「ねえ、あれが悟様のお相手?」
「まるで人間じゃないような見た目じゃない。」
「両親の見た目は普通だったみたいよ。」
「そうなの?じゃあなんなのあの見た目は。」
「見てあの目、真っ赤で血のような色じゃない、災いを呼ぶんじゃ…悍ましい。」
「父親も母親も今は…らしいわよ。なんて恐ろしい子。」
「当主様はなんであんな子を…」
ヒソヒソとしかしそれはでもしっかりと私の耳に届いた。
幻中家では私の見た目を揶揄する人はいなかった。
でもここにきて気づいた。ここには守ってくれるいい人だけじゃないんだと。
父様や母様があんな目にあったのを自分のせいのように語られて、それが自分のせいじゃないと言えない自分も、守る力のない自分の不甲斐なさも、証明する力すらなく守ってもらうしかない自分に涙が溢れた。
ポタリ…ポタポタ。
それはとめどなく溢れて。
心はズキズキと痛むし、着物を涙で汚したくなくて、蹲って目を塞いだ。
もう消えてしまいたかった。
ここにくるまでの小さな勇気も、跡形もなく消えてしまいたかった。
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作者名:夜兎 | 作成日時:2022年11月7日 23時