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27匹 ページ28

Aside


「私は当主様に報告を、美桜はお部屋の準備をして参ります。
 そんなに時間はかからないと思いますので、この庭で散策でもなさっていてください。」


案内されたのは一際大きな建物。ここが本邸というらしい。


塀で囲まれたその一角、季節の花が咲く庭で待つことにした。


手入れの行き届いた色とりどりの草花と、スイスイと泳ぐ綺麗な錦鯉を眺めていた。


汗ばむ陽気に池を泳ぐ鯉がとても気持ちよさそうに見える。


ツイーツイと水面を進むアメンボを数えていた。


待って数分、ヒソヒソと女性が話す声が聞こえた。


「ねえ、あれが悟様のお相手?」
「まるで人間じゃないような見た目じゃない。」
「両親の見た目は普通だったみたいよ。」
「そうなの?じゃあなんなのあの見た目は。」
「見てあの目、真っ赤で血のような色じゃない、災いを呼ぶんじゃ…悍ましい。」
「父親も母親も今は…らしいわよ。なんて恐ろしい子。」
「当主様はなんであんな子を…」


ヒソヒソとしかしそれはでもしっかりと私の耳に届いた。


幻中家では私の見た目を揶揄する人はいなかった。


でもここにきて気づいた。ここには守ってくれるいい人だけじゃないんだと。


父様や母様があんな目にあったのを自分のせいのように語られて、それが自分のせいじゃないと言えない自分も、守る力のない自分の不甲斐なさも、証明する力すらなく守ってもらうしかない自分に涙が溢れた。


ポタリ…ポタポタ。


それはとめどなく溢れて。


心はズキズキと痛むし、着物を涙で汚したくなくて、蹲って目を塞いだ。


もう消えてしまいたかった。


ここにくるまでの小さな勇気も、跡形もなく消えてしまいたかった。



 

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作者名:夜兎 | 作成日時:2022年11月7日 23時

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