第7話 ページ10
宇髄side
コンコン、と扉をノックされる音で周りも見えないほどに絵を描くことに熱中していた自分に気付く。
もうほとんど生徒も帰っているであろう時間帯。
『入れ』
どうしたんだ時透、という言葉を思わず飲み込む。
それだけ顔が怖かった。ああ……、俺死ぬのか。
「ねえ宇髄さん、聞きたいことがあるんだけど」
『ハイ』
「休み時間の度にAを追いかけ回してるって本当?」
『い、いやそれは美術部の勧誘をだな……』
「へえ、美術部ってそうやって勧誘してたんだぁ。知らなかったなー」
怖い。とてつもなく怖い。確かにAに関わるなって言われてたけども。でも、でも。
やっと、探し求めていた宝物に会えたんだ。記憶が無くとも、大切に思う気持ちは変わらない。またあの頃みたいにくだらない事を話して笑いたい。
頭の中でゴネゴネと言い訳を考える。こんな地味みたいなこと、俺らしくもない。
でもそれくらいにこいつが怖いんだ。
黙って眼力だけで俺を縮み上がらせていた時透ははぁ、とため息をついた。
「……わかってるよ。お嫁さん3人もいてチャラチャラしてた宇髄さんがあんなに必死になって追いかけてたんだもん。大切にしてくれるだろうし遊びじゃないことなんて見ればわかってた。“前”はそれで良かったんだ。
でもさ、今は?Aは“前”の記憶が無いんだよ。鬼なんておとぎ話だと思っているし、前世もただの人間の妄想だって思ってる。それに記憶が戻って、前みたいになったら………。」
そう言って俯く時透の手は痛いほどに握り締められ、震えていた。
怖いんだ。こいつも兄だから。俺だって弟がふとした瞬間に記憶を取り戻して、また機械みたいに、あの父親みたいになってしまうその瞬間を恐れてる。今世は幸せで、たくさん笑ってる弟の俺と同じ赤い瞳から感情が抜け落ちる瞬間が怖い。
Aも柱になった時は自分で何かをしようとする素振りもなかった。挨拶しなさいと言われないと挨拶しないし、帰るよって言われるまでその場に突っ立ってた。お腹がぐーぐー言っていてもお腹すいたの一言も言いやしない。ましてや食べようとすることなんて以ての外だった。湯浴みだって時透の奴が一緒に入ってしてやってるって言っていた。
『……悪かった。でも前世のことは間違っても言わないようにするから話したり関わりを持つことくらいは許してくれないか』
「……わかった。僕も過保護すぎた。ごめん」
(それぞれが持つ共通の恐怖)
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作者名:すぴか。 | 作成日時:2023年1月10日 10時