第5話 ページ8
no side
そろそろ生徒もみんな下校しただろうか、という時間帯。職員室を訪れていた生徒が1人いた。
「宇髄先生はいますか……？？」
破天荒な美術教師を般若と見間違うような顔で呼んだのは前世では霞柱を務めていた時透無一郎。前世で雪柱を担っていた少女の兄だ。
兄妹揃って記憶や自我を取り戻した矢先、黒死牟との戦闘で殉職してしまった最年少の柱たち。2人寄り添い、お互いを抱き合うようにして目を閉じることも無いまま絶命していた、あまりにも幼く悲惨な最期を思うとこんな平和な時代に普通の一学生として日常を歩めているだけでも良かったと悲鳴嶼は人知れず涙をこぼした。
ここに居る者はほとんどみんな“前世”の記憶がある。花柱であった胡蝶カナエを始め、不死川、冨岡、宇髄、悲鳴嶼や伊黒、煉獄は教師に。甘露寺はこの学園の卒業生。炭治郎や善逸、伊之助、しのぶや玄弥、蝶屋敷の子どもたちは在学している。
その中で、Aだけが記憶を持っていなかった。
宇髄に見初められ、成人して鬼がいなくなったら入籍してくれ、家族になってくれと一世一代の、今で言うプロポーズを受け入れた直後の悲劇だった。立派な最期だった。
だからこそ、柱だった者はみんな今世は幸せになって欲しいと願っていた。宇髄にも、Aにも。(そもそも留学をしていたが故になかなか見つからなかった。みんな血なまこになって探した。煉獄は日本一周してた。)
宇髄とAは何だかんだ年の差があっても、表情に出なくても2人ともお互いを好き合っているのは傍から見ていてもわかっていたし、我妻に至っては胸焼けしたような顔をしていたのには少し笑ってしまった。恐らく無一郎もそれで根負けしたのだと思う。
「宇髄は美術室に居ると思うぞ！もう暗くなるから用があるなら急ぐといい！」
そう答えるのは煉獄だ。
海老天のような髪色、声が大きいのは前世と変わらずである。
「分かりましたありがとうございます」
般若のような顔をしたまま職員室の扉が閉められた。
(霞柱の怒り)
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作者名：すぴか。 | 作成日時：2023年1月10日 10時
