沫がいつつ ページ5
4人でいる時、うらさんはすごく楽しそうにしている。
好きな人の話をする時、うらさんはすごく幸せそうにしている。
この空間を壊そうとしているのは紛れもなく俺なんだ。
だけど、少しの時間でいいから夢を見ていたい。
そう思ってみたりした。
電源の切ったスマホが振動した。
ラインの通知が来ている。
…うらさんからだ。
うらたぬき坂田。今日お前の家に泊まってっていい?
返事に困った
少し考えてから返事を返す。
坂田いいよ、
こう返した理由はきちんと話しておかないといけないと思ったから。
もう、だから、気持ちも伝えなきゃダメなんだ。
それからしばらくして、うらさんが来た。
ドアを開けるといつも通りのうらさんがいた。
いらっしゃい、といつも通りに言ったつもりでも声が出ていないんだろう。
自分の声は聞こえなかった。
「ほんとに声出ないんだな」
俺はスマホを文字を打って見せた。
〈ごめん、あのさ〉
「ん?なに?」
うらさんは小さく首を傾げて言葉を待ってくれている。
やっぱり優しい。
そして、そんなうらさんに甘えてしまう俺がいる。
言わなきゃいけないこと、言いたかったことを文字に打とうとしたけど、指が動かなかった。
なんで動かない…?
言わなきゃいけないのに。
指が震える、冷たい。
「坂田?」
俺は震える指で文字を打った。
〈なんでもない〉
自分のした行動が信じられなかった。
また、嘘をついてしまった。
また、言えなかった。
どこまでずるいんだろう。
「そっか」
それから夜まで、本当のことを言うタイミングは何度もあった。
…でも、言えなかった。
…いや、言わなかった。
今のままで、今のままで満足してしまっている自分がいたから。
うらさんが今、幸せなように、俺も、今のままで幸せだったんだ。
ただ、それに気づく力がなかっただけ。
変に自信を持った自分がいた。
俺は誰よりもうらさんをわかってるって。
でも、そんなの関係なかった。
うらさんが好きになったのは俺じゃないんだから。
当たり前か、俺男だし。
でも、それでも…
俺の方が先に好きになったのにって…
絶対俺の方が幸せにできるのにって…
そんなことばっかり考えて、気がついたらまるで甘酸っぱい恋みたいに嫉妬してた。
うらさんは他の人のことが好きなんだってわかってても、うらさんと話せるだけでとても嬉しくって、近づけた気持ちになって…
自分で勝手にそう思ってた。
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作者名:瑞飴 | 作成日時:2017年12月7日 17時