はち ページ9
掴んでいた腕を捨てるかのように離したオリヴィエは、獲物を見るような目で自身を見てくる碧に向き直った。
必然的に碧の後ろで怯えているエレシュキガルを視界に捉えることになるがなんのその。
「碧、先に尋ねるが貴様雷撃系の何かをしでかしたか?」
「してないよ」
僕はね、と言葉は続かず。
「ならば我が国を敵視しているところか」
「何かあったの?」
この時、エレシュキガルは嫌な予感がした。
そしてその予感は的中する。
「いやなに、我が戦艦はマリアナ海溝を警備していたのだが突然何者かに襲われてな。ソナーには大型生物の影が写っていたのでクジラだったのだろう」
ぎくりと肩を跳ねるエレシュキガル。
余が釣り上げた巨大生物だと主張するイスカンダル。
「まぁ別にそれはさして問題はない。そのあとが問題だ。どこからともなく高圧電流が我が艦を襲ってな。お陰で舵はとれないわ、勝手に海上へと向かうわ、あまつさえ機器が誤作動を起こして魚雷が発射されてしまうわ」
ぎくぎくと再度肩を跳ねさせるエレシュキガル。
余の宝具だなと豪快に笑うイスカンダル。
「どうにか機器の復旧を可能にしたが……」
言葉を少し止めたオリヴィエは、戦車の上にて胡座をかいているイスカンダルを見たあとに碧を睨んだ。
いや、見据えただけなのかもしれないが彼女の眼力によって睨んだように見えてしまう。
「碧、魚雷を見なかったか?」
「うん、見たよ」
途端にオリヴィエの表情は歪んだ。
そして周囲を占める空気が緊迫感溢れるものに変貌する。
先程まで休めの体勢をとっていた水兵達はいつの間にか、その手に銃を持っていた。
銃口の先は三人に向けられている。
統率の取れた水兵達にイスカンダルは関心を抱いている様子。
場違いすぎるのだわ、と内心思うのだが空気を読める偉い子エレシュキガルは喉の置くにその言葉をしまいこんでいた。
「ほう、見たか。見てしまったか。ならそれを貴様はどうした、碧」
「エレちゃんが怪我をしたら危ないから、弾頭部分の一部を切って蹴りあげたよ。たぶん、宇宙までいったんじゃないかな」
一瞬波の音しか聞こえないような静寂に包まれた。
「蹴りあげた?」
「うん」
「宇宙まで?」
「うん」
途端に腹を抱えて笑い出すオリヴィエに、エレシュキガルは目を白黒するしかなかった。
ーーいったい何処に笑うポイントがあったのかわからないのだわ……。
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