じゅうろく ページ17
それが起ったのは高度一万五千メートル上空。
サイパン国際空港を無事に離陸した飛行機は、空を悠々と飛んでいる時だ。
「全員騒ぐな」
どうやって荷物検査を潜り抜けたのか、武装した人間が数名通路に立っていた。
悲鳴を上げる乗客達に銃声が数発響き渡った途端、皆が全員口を閉じるしかなく。
「大人しくしていたら危害は加えない」
そう言った犯人の一人は無線機で何かを伝えた。
──奇しくも碧達が乗った飛行機は、ハイジャックされたのだ。
どうするの、と隣に立つ恋人に目配りをするが反応は何故かなく。
むしろ、冷や汗をかいているではないか。
「碧、いったいどうしたの？」
「……なんでもないよ、エレちゃん」
「でも、凄く汗をかいているのだわ」
よくみればカタカタと小刻みに震えているようにも見える。
碧の一つ向こうにいる征服王に助けを求めるため、目を向けるが当の征服王は窓の外の空の景色に釘付けだ。
むしろハイジャックに遭遇していることにさえも気付いていないのかもしれない。
「イスカンダル」
「おお！ 島があんなに小さく！」
「イスカンダル、碧が大変なの」
「気にする必要はないぞ、女神よ。いつもの閉じ込められた時にでるアレだろう」
「気にする必要ありまくりなのだわ!?」
思わず大きな声でツッコミを入れてしまったエレシュキガル。
はっとして口を押さえたがもう遅く。
足音が近付き、エレシュキガルの隣に誰かが立った。
「騒ぐなと言ったはずだが、お嬢さん」
向けば、覆面に武装をした一人の男がいた。
なまり混じりの英語だが、聞き取れないわけではなく。
一人くらいなら峰打ちで倒すことは可能なのだが、相手は一人ではない。
うえ、沢山の乗客が人質となっているのだから下手に攻撃するのは得策ではない。
そう考えたエレシュキガルは少し怯えたような表情を作りつつも、女神の威厳は決して損なわずに相手を見据えた。
「ご、ごめんなさいなのだわ。私の連れの体調が悪くて。どこかで休ませてあげてほしいのだけど」
「連れ？」
「隣の彼なのだけど……」
エレシュキガルが隣を見れば、犯人の一人も倣うようにエレシュキガルの隣に座る碧を見た。
「子供か。あとで薬か何かを持ってきてやる」
「え、いや、彼は子供じゃなくて……」
「とりあえずちょっとは我慢しろよ、坊主」
まさかの犯人の一人は碧を子供だと思ったらしい。
ここにきて彼の血に混じる東洋人は幼く見えるが発動したようだ。
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