そこから救い出して ページ10
かちこちと時計の秒針が音をたてる。
かつかつとシャーペンが机を叩く音がする。
先生の声だけが教室の中に響く。
私はじーっと見つめる。すこし前の席にいる玄樹の背中を。
…特に意味はなくて、ただなんとなく。
「…………、」
日頃かわいいとかやさしいとか言われる玄樹だけど
ふとしたときにやっぱり男だなと感じる時がある。
たとえば女の子なんかよりも背中が広い。
手も私より大きいしガッシリしている。
まぁ、身長は私より少し高いくらいだけど。
……やっぱ男子高校生なんだなぁ。
昔は私の方が背が高かったのに、
成長するのなんてあっという間だった。
「………やだな、」
なんだか玄樹も廉もいつか遠くへ離れていくような気がして、
急激に不安になって寂しくなって。
先のことなんて全く分からないし、現に今だって廉も玄樹もすぐそこにいる。
それなのに喪失感と虚無感に襲われて訳も分からず指先がかすかに震えた。
「……―――、」
そのとき、何を言ったわけでもないのにふいに玄樹がこちらを振り返った。
パッと目が合うと玄樹がにこりと微笑む。
それから私の様子がおかしいことに気付いたのか、どうしたの、と目が尋ねてくる。
なんでもないと首をふっても、玄樹はまだどこか心配そうにしながら前を向いた。
だけどそれだけで充分だった。
私の中にさっきまであった不安は消えていた。
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