水溜りが映してるもの ページ7
雨の日の傘の中で囁くような声がその人の中で一番美しい声である。
いつかどこかでそんなことを聞いたことがあって、
今まさにそれを体験しているところだった。
「A?」
不意に名前を呼ばれて聞いてる?と覗きこまれる。
その囁くような声が傘の中で反射して私の鼓膜をちいさく揺らしていく。
いつもとほんの少し違うような、少し低く聞こえるその声は
玄樹の声の中で多分きっと一番美しいんだろう。
普段より距離が近いせいなのか、
雨が降っているせいなのか、
私が女という性別であるせいなのか。
…そんな声を聞いて心臓が速くなって
頬が熱いように感じるのは仕方ない。
「……え、あ、うん、なに?」
「ほら、聞いてないでしょ」
「ごめん」
「はは、別にいいよ、大丈夫」
ごめん、ありがとって微笑んで別の話題を振る。
でもやっぱり思わず玄樹に見惚れてしまう。
普段から見慣れてはいるけれど改めて見ても整った顔立ちをしている。
女子にかわいいだとかカッコいいだとか言われてるけど私も本当にそう思う。
それはもちろん、廉だってそうだけど。
私と話す玄樹の瞳の中央には私がいて、
雨のせいか少ししっとりとして見えた。
その瞳をそっとみつめながら思う。
雨の日で例えるならば、きっとその瞳は水たまりだ。
260人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ