３(挿絵有) ページ5
「おい、何とか言えないのか」
それは、嫌でも耳につく明確な悪意のある響きを持った言葉であった。
「お前、どうしてくれるんだよ！！」
更に張り上げられた声に耳がキンと痛む。尾張春吉は、同じく井桁模様を身にまとった二人の生徒によって一方的に責められていた。一体何があったかは傍目ではわからない。尾張春吉はいつものように静かにほほ笑むだけで彼らに反撃をしない。
「･･･あいつもここで一言くらい、いい返してやればいいんだ」
仙蔵はそう呟き、そのまま視線とともに意識を教室に向ける。
そうだ、何を心配する必要がある。あいつだって人間だ。あれだけ悪意を直接向けられたら何かしら反撃位するだろう。
―――そう思った矢先
バチッ
まるで空中で何かが炸裂したかのような、したたかに頬を打たれたような音が響き渡る。
この音で初めて同級生たちも気づいたのだろう。仙蔵はもう一度窓から外を見遣る。そこには、手を振り切った同級生と、地面に倒れ込み顔を伏せっている尾張春吉がいた。
どこからか騒ぎを聞きつけたのだろうか。尾張春吉の所属している火薬委員会の委員長である六年生の先輩と、保健委員長、教師らが駆けつける。
手を挙げた同級生は教師に連れられ職員室へ向かう様子が見えた。尾張春吉は、火薬委員長と保健委員長に抱きかかえられ保健室へ連れていかれるようだった。
その時、仙蔵は尾張春吉の顔を見て眉を寄せ顔を顰める。
決して彼が嫌いなわけではない。こういった考え方をする人間が嫌いなのだ。
ああ、気にいらない、気に食わない。
―――どうしてお前はずっと笑顔でいるんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：うみ | 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/users/74022984
作成日時：2021年9月22日 12時
