【rkrn】春の訪れ【男主】 (ページ4)

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　一年い組の立花仙蔵は、ろ組の尾張春吉が苦手だった。クラスが違うために、関わる機会は少なかったのだが、それでもどうしてか"彼の"誰にでも平等であれ"の精神が気に入らなかった。ともすれば必然とそれに連なるように彼の行動だけではなく彼の何もかもが気に食わなくなっていった。

―――最上級生になった今でこそ当時を振り返ると、心底どうでもよいことであったように思うのだが。

　まだまだ幼い立花仙蔵、１０歳。何も理不尽に彼の全て否定したい訳ではない。何がそんなに気に入らないのか、と同室の潮江文次郎に尋ねられたことがある。仙蔵は春吉が嫌いなわけではなかった。"自身に対してよく思わない者たちにですら平等に接する人間"がひどく気に入らなかったのである。その気に入らない人間の枠に、たまたま尾張春吉という人間が合致しただけの話である。
　陰で彼の悪口を吐露するもの、あからさまな態度をとり露骨に無視をし続けるもの。そんなことをされるのならば、こういう輩どもは無視をするに限る。関わると碌なことにならないだろうに。

―――当然、彼自身も"それ"に気付いていた、ように思ったのだが。

　しかし、この尾張春吉という人間。あろうことか、普段と変わらないように笑顔を浮かべながら、嬉々として彼らに話しかけるのを度々見かけた。

　そうして幾日か経った皐月のある日、ある出来事が起こった。
　
　その日は、い組の生徒には組の生徒が混ざる形で合同授業が実施された。これは本来予定されていなかったものであったために、生徒たちもソワソワとしていた。は組の座学担当の教師が急遽遠方に出張されるために合同授業になったらしい。
　授業は滞りなく行われ、普段通り学園の鐘の音とともに授業は終了した。挨拶をすませると、教師は早々と職員室に向かい、は組の生徒も次の授業のためにと移動し始めていた。
　仙蔵は何の気なしに移動するは組の生徒たちが凡そ退出したのを見届けた後、空をぼんやりと眺めていた。仙蔵は積極的に同級と関わろうとせず、必要最低限の挨拶や、やり取りをするだけであったために声をかけられることも殆どなかった。だからこそ今日も何事もなくこのまま一日が終わると思っていた。

　◇