知っていること ページ2
.
それはもしかしたらいつものパターンだからかもしれないし、彼の本当の優しさからくるものなのかは私は知らないけれど。
がちゃり、とドアが開く音が微かに耳に届く。
その後、パソコンを開いたままの小さなテーブルにビニール袋をどさりと置く音、足音、ノブをひねる音、またドアが開く音、足音。
ぺた、と当てられる気持ち良い手のひらにゆっくりと目を開けた。
「寝とけ言うたやろ」
「目を開けただけ。頭は寝てる」
「屁理屈か」
熱は、と聞かれ、何も表示されていない体温計を見せる。「それは見せんでええねん測れ」と突き返された。ひどい。
外気によって冷やされた体温計を差す。
その間に大は部屋を出ていって、キッチンからは水の流れる音がする。
ピピピ……と胸元から無機質な音がしたのと同じタイミングで、大は氷水の入った袋を持って帰ってきた。
ん、と差し出すと、少しの間それを見ながら片手間に私のおでこに袋をのっける大。
「つめた……」
「あんま変わっとらんな……薬は飲んだんか？」
こく、と頷けば、そうか、と短く返されて、大は立ち上がる。私は、反射で伸ばしかけた腕を引っ込めて、布団の中にしまった。
寂しくない、寂しくない。
がちゃん、と無慈悲に閉まる扉の音。
……早く、戻ってきてくれないかな。
「……何しょんぼりしてんねん」
ふと、布団の向こうから声がした。
ひんやりとした感覚。
「ひゅっ！」
「氷とれとるやん…おとなしゅうしとけ」
布団から顔を出すと、呆れ顔の大がいた。
私がぼーっとした目で大を見ていると、ベットのそばに座り込んだ大がぷす、と頬を指でさしてくる。
「さっき言うたやろ？寝とけって」
「寝てるもん」
「寝とらんやんけ」
肩を竦める大だけど、私は知ってる。
本気で怒っている時の大はこんな顔じゃないって。
だから私は、ひんやりとした大の手を、布団の隙間から自分の腕を伸ばして握りしめる。
「……A」
「私が寝るまででいいから」
顔の横まで持ってきて、抱き枕みたいに抱え込む。
ひんやりとしていた大の手がどんどん暖かくなっていった。
これはこれでぽかぽかするし、安心できて、いいかも…
何か大が言っていたような気がするけれど、眠気の方が勝って、私は意識を手放した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 95人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
梅餅(プロフ) - ふわ丸さん» コメントありがとうございます！そう言っていただけて感謝の限りです！ (7月22日 11時) (
レス) id: 19098535e6 (このIDを非表示/違反報告)
ふわ丸(プロフ) - 完結おめでとうございます！とても面白かったです！！！ (7月21日 18時) (レス) @page32 id: 3811a438d9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：梅餅 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/12Saku111/
作成日時：2020年6月14日 17時
