第一話 ページ1
芥)「――おい、いるんだろう。姿を現せ」
子の刻、魔都・ヨコハマ。
ポートマフィアの禍狗の異名を持つ構成員・芥川龍之介は背後を振り返り、ぎろりと暗闇を睨みつける。
芥)「先刻から僕を尾行していることは気づいている」
しばらくして、路地からぬっと小柄な人影が現れた。襤褸に身を包んでおり、顔が見えない。
人影は無言で懐から短刀を取り出すと芥川に襲い掛かった。
それを軽々とかわし、芥川は距離を取る。
芥)「雇われの殺し屋か?僕の命を狙おうなど笑止。――羅生門!」
ぬら、と暗闇の濃度が濃くなった。意思を持った黒布が闇を切り刻んでいく。
刺客は慣れた身のこなしで斬撃をかわし、素早い動きで芥川の懐へ入り込んだ。
突然距離を詰められ反応が遅れる。その一瞬を刺客は見逃さず、切っ先を喉元へ突き立てた――
――はずだった。
芥)「……羅生門・空間断絶。惜しかったな」
『――ッ』
逃げようと思っても周囲には黒布が浮かんでいる。
芥)「終わったな」
黒布はズタズタに引き裂いた――中身のない襤褸を。
芥)「なっ」
芥川の眼前には襤褸を脱ぎ捨てた刺客の凶刃が迫っていた。
羅生門がそれに追随するが、刺客は躊躇うことなく芥川への殺意へ真っ直ぐに駆けていく。
刺し違えるつもりか。
その純粋で洗練された殺意に敬して、一撃で仕留めてやろう――そう思った瞬間、雲間から月光が漏れた。襤褸で隠されていた刺客が露わになる。
刺客の正体は儚げな少女だった。
歳は17か18。刃を透き通らせたような銀髪が夜風に靡いた。底に冷たい光を宿した碧眼と真一文字に結ばれた唇からは無機質な殺意が伝わってくる。
その殺意を感じ取った瞬間、芥川は雷に打たれたような衝撃を覚えた。
美しいほどに純粋な殺意、洗練された動きを惜しいと思った。
――惜しい?
初めて己が抱いた感情を理解できず、芥川はギリッと奥歯を噛み締めた。
だがしかし、ポートマフィアに仇をなす者は排除しなければならない。
しなければならない、のだが……。
煩わしい声が脳内を流れてくる。
――6ヶ月間、お前は誰も殺すな
芥)「くそっ」
羅生門を唸らせ、刺客のうなじに叩きつける。
呻き声をあげ、少女は闇の中に倒れた。
気絶していることを確認し、芥川は携帯で樋口の番号を呼び出した。
樋)「は、はい、芥川先輩っ」
はた、と動きが止まった。
――このことを云えば、彼女の身柄はどうなる?
芥)「……否、何でもない」
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作者名:ういろう丸。 | 作成日時:2023年11月5日 18時