ムルソー組とアイツは混ぜるな危険でした

バンドメンバー募集中 ページ23

妙な心音だと思った。だから足を止めた。
様々な心音、呼吸音、地面を蹴る音が混在する中、条野採菊はそっと耳を澄ます。
とくんとくんという規則正しいリズムかと思えば、突然どくどくどくと騒がしくなったりどっっっっっっくんと気持ち悪いほどゆっくりになったりする。そう、気持ち悪い。こんな心音は初めてだ。

条)「これは一体――」
『私が最近すきなロックバンドの新曲だよ』
条)「！？」

振り向くと、バァ☆と腹の立つ効果音とともにニタァという笑みを張り付けた少女が立っていた。
彼女の心音はドゥクドゥクという、もはや心音なのかこれ？という音になっている。

『っていうか勝手に人の刻むビートを聞かないでくれる？変態よ？？』
条)「聞きたくて聞いていたわけではありません」
『えぇ、でもさっきから熱心に耳を傾けてたじゃん？無自覚ってのが一番やばいっすよお兄さん』
条)「………」
『お兄さん、耳がいいの？』
条)「まあ、人並み以上には」
『ふぉーん』

自分からきいてきたくせに興味がなさそうな態度をとる彼女に条野は眉間にしわをよせた。

『あ、じゃあさじゃあさ、この音当ててみてよ』
条)「は？」
気持ち悪い少女は手元の端末から奇々怪々な音楽を爆音で流し始めた。あまりの音の大きさにすれ違う人々が嫌な顔をして耳をふさぐ。常人よりも耳の良い条野にとってはその音の大きさはたまったものではない。
しかも、
『ねえこの音わかる？？このあとすぐにそのとおりの音を弾くことはできる？？？』
条)「ちょ、音が大きすぎます…！！」
『こたえてよーーーーーー』
条)「うるっっさいですね貴方！！！弾けますよ！！！！！」
『え、ほんと！？じゃあピアノ弾ける！？弾けない！？弾けないかぁそっか残念だなぁ期待外れk』
条)「弾けますよそれくらい！！勝手に決めつけて勝手に失望して勝手にけなさないでください！！」

そう怒鳴った時には、すべてが遅かった。



『――へぇ、お兄さん、言ったね？』


ヨコハマ某所。
条野採菊の休日は見事につぶれた。
割れんばかりの歓声、吐きそうになるほどの二酸化炭素濃度、ペンライトの光。
条野はライブハウスのステージに立ちピアノを無心で奏でていた。
『っしゃあ、みんないくよーーーー！！！！！！！！』とAはエレキギターをかき鳴らし、中原中也はマイクに向かって絶叫し、太宰治はドラム、ドストはカスタネットを叩く。正にカオス。

鉄)「ちなみに俺は鍵盤ハーモニカ係だ」
条)「仕事をしろ」

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