子守歌 ページ3
「――Aさん。本当に其れをするのですか」
『うん。此れは紛れもなく貴方の為なの』
「ええ、其れは解っています。然し……
子守歌は流石に、恥ずかしいのですが………」
『いや大丈夫。歌を歌うの得意なんです』
「いえそういう問題ではなく」
『でもドス君、全然眠れていないじゃん!!』
「それはそうですが……」
そう、ドストは日々の疲れにより多大なる睡眠不足に陥ってしまっているのだ。
如何にかして彼を眠らせようとAは名案を思い付いた――"子守歌"である。
「たしかにこれは"迷案"ですね」『ん、ドス君もしかしてわざとその変換にしてる??』
Aは最近そんなドストを心配し本当に、本当に色々なことをしてくれているのだが……。
その"色々なこと"を思い出し、突然ドストは顔を覆って悶えた。魔人と云えど恥ずかしいものは恥ずかしいのである。
「いえ何というかその、更なる煩悩に支配されてしまい……」
Aはその言葉に不可解そうな表情をしたが、
『煩悩……?あ、いいこと思い付いた!ちょっと横になってね!!』
云うなり、Aは横に座っていたドストの肩を思い切り引っ張り、自らの太腿に彼の頭を乗せた。
ヒュッ、と息を飲みこむ音がドストの喉から漏れる。
『ふふ』
ちろりとAが舌でその薄紅色の唇を舐めた。彼女の一挙一動に、ドストは簡単に煩悩にとらわれていく――。
「ぁ、の、Aさ」
『じゃあいくね――
摩訶般若波羅密多心経観自在菩薩行深般若波羅密多時照見五蘊皆空度一切苦厄舎利子色不異空空不
異色色即是空空即是色受想行識亦復如是舎利子是諸法空相不生不滅不垢不浄不増不減是故空中無――』
恋人の膝枕と共に読み上げられる般若心経。
ドストの脳内に"煩悩"の二文字が浮かんでは消え浮かんでは消え、終いには煩悩という文字がゲシュタルト崩壊してしまう程のパニックを生み出した。そんなドストを置いて般若心経はまだまだ続く。
「…………あの、Aさん」
怒涛の般若心経が読み終えられた後、ドストはゆっくりと口を開いた。
『ん?』
「流石に息継ぎをせずに般若心経を読み切ったことはなんというか…
貴方、阿呆ですね?」
『ぐうの音もでませんね…。いや、でも凄くない?私の一糸乱れぬ般若心経の読み上げ』
「需要あります?それ」
ぜえぜえと肩で息をするAの背中をさすり、ドストは笑みを浮かべた。
えへへ、とたんぽぽのようにふわふわと笑い返してくる可憐な少女。
――きっと今夜も、眠れない。
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ういろう丸。(プロフ) - コメントありがとうございます!これからもキュンを生み出すべく精進してまいります!! (11月5日 0時) (レス) @page5 id: b42abe2b72 (このIDを非表示/違反報告)
らっきー☆ - コメント失礼します!めちゃくちゃキュンキュンしました〜!!作者様天才ですな(`・ω・´)幸せな時間をありがとうございました!!新規の投稿とかも……ご迷惑でなければ、楽しみに待っております〜 (10月24日 20時) (レス) @page4 id: f7f5f582e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ういろう丸。 | 作成日時:2023年5月20日 13時