番外編?:林芙美子 ページ11
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その問いは、唐突だった。
「ふみさんってさ、中也さんのこと嫌いだよね」
濁りのない瞳が向けられていた。
自分でも情けない声が漏れてしまう。
図星といえば図星だった。
今はまだ言えないけれど、いつか、平和になったら、この子には話してもいいかなとも思っていた。
「どうして、そう思いましたの?」
「ん、何となくかな。ごめんね、嫌なこと聞いた」
そう言って紅茶を飲み干すAさんを見つめる。
人間観察がうまい子だなとは思う。
「あともう一つ聞いてもいい?」
「……何です?」
「立原さんと、仲いいよね。どんな関係?」
思わず肩が跳ねた。
心臓が早鐘をうつ。
「……ただ、行く先々で会うだけですわ」
自分でも苦しい嘘だと思った。
今はただ、騙されてくれることを祈った。
Aさんは、ふうん、と何故か残念そうに呟く。
「ヤンキーとお嬢様の恋物語もいいと思ったんだけどなあ」
「……御冗談を」
そんな風に見ていたのか。
これからは気を付けよう。
そう思っていた矢先、再びAさんが言葉を発した。
「実は広津さんに聞いてみてって言われたんだよね、なんでかはわからないけど」
背筋が凍り付いた。
もしやあの男にバレたのか。
そうだとしたら自然とこの組織の首領にも報告がいってしまう。
完全に立原の不手際だ。
すぐにでも問いたださなければ。
こちらの焦っている様子にも気づかず、Aさんは吞気に言う。
「やっぱ部下の恋路はいくつになっても気になるんだね」
一人で納得しているAさんに、あえてゆっくりとした口調で頼む。
「Aさん、立原と私がそんな、関係だなんてことは断じてありませんから、広津百人長には何もないとだけ伝えておいてくださいませ」
「え?別にいいけど、なんで……」
「そうだわ、わたくし、用事を思い出しました。紅茶ごちそうさま」
Aさんの言葉を遮り、そのまま返事も聞かず部屋を出た。
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「立原、最近口を滑らせませんでした?」
「え、何の話だよ」
「やっぱりこれはありますよ広津さん」
「……」
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方舟さくら丸__舟員・林芙美子
異能力___「稲妻」
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作者名:のーと。 | 作成日時:2018年10月1日 22時