良かった…………のか？ ページ30
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目を覚ました瞬間、状況が理解できなかった。
点滴。
包帯。
こんな治療を施すほどの事件があったか、と記憶を掘り起こす。
否、掘り起こすまでもない。
一番新しい記憶だ。
白鯨は海に墜ちた。
それはよかった。
万々歳だ。
しかし自分も一緒に海に沈んだはずではなかったか。
この設備は、つまりこれは助かったということでいいのか。
歓喜の海が胸いっぱいに押し寄せてきたが、それはすぐに引いていった。
……ここどこ？
少なくともポートマフィアの医務室ではない。
探偵社でもおそらくない。
病院も多分こんなに薄暗くも密室でもない。
すると、コツコツと足音を響かせて何やら人が入ってきた。
肩まで伸びた黒髪に紫色の瞳をした男だ。
頭にはロシア帽をかぶっている。
「気分はどうですか」
「……超怖いです(訳:あなたは誰ですか)」
そんな私の気持ちを汲み取ってくれたのかはわからないけど、名前は教えてくれた。
「ぼくはフョードル・ドストエフスキーです」
「はあ……安部と申します」
「ええ、知っています」
「……」
今私ものすごい真顔だった自信ある。
えっ何超怖い。
勇気を振り絞って聞いてみた
「な、んで、あの、ご存知なん、でしょう、か」
「鼠をなめたらいけませんよ。彼らは街中にいるでしょう」
そう言って不気味に笑みを深める彼に、こう返すのがやっとだった。
「……日本語がお上手ですね(訳:何言ってんのお前)」
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作者名：のーと。 | 作成日時：2018年3月28日 9時
