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「うぅ…飲みすぎた」


部長、幾ら新歓だからって生ビール一気は駄目でしょ。
のらないと後で何があるか分かんないからのるしかないって、思ってるの、多分知っててやらせるんだよな。


あんまり飲むと、忘れようとしていた嫌な記憶の蓋がカタカタと音をたててくる。


「すみません、夜風にあたって酔い醒ましてきますね」


近くにいた女の先輩に一言添えて表へ出た。


ふぅ、と一息ついて空を見上げる。
5月というのに少し肌寒い今夜は、普段より星が多く輝いて見えた。


「こうやって星見るのいつぶりだろ…」


周りのビルの間から覗く星々は、しっかりと己の存在を主張していた。
まるで、いつまで経っても自信が持てない私の背中を押すように。


「いつまでも過去に囚われてうじうじしてても仕方ないけど…」


あぁ、フラッシュバックしてくる。
数々の心ない言葉。
恋を自覚してすぐに思い出したくなんかなかった。


「主役がいつまで呆けてるん、A?」


涙を堪えながらじっと星を眺めていたら、私を呼ぶ声が隣でした。


千羅さん、と私を呼んだ彼の名を口にすると、


「口開けて?あーん」


と言われ、その言葉に従い口を開けた次の瞬間、甘い味が口いっぱいに広がった。


「飴でも舐めて気ぃ紛らわし?」


「有難うございます、甘くて美味しいです」


お礼を言うと、Aの口にあってよかった、と微笑む彼。


「結構ハイペースで飲まなきゃなんですね。想像以上で驚きました」


舌の上で甘味を転がしながら千羅さんに話し掛けた。


「そうやなぁ、俺も新入社員の時は結構飲まされて次の日少し二日酔い気味やったわ」


苦笑いで応える彼は、年下の私が言うのもあれだが、少し可愛く見えた。


「そういえば、千羅さんってリーマン何年目ですか?」


「もう7年になるんかな」


え!?
もう少し若いかと思ってた。
けど、7年という年月が時折見せる余裕さを生んだのかと思うと、府に落ちた。


「Aから見たら、俺はもう年やな」


千羅さんが自虐的な笑みを浮かべたからすかさず、


「まだまだこれからですよ、って何ですかこの会話」


って言いながら吹き出してしまった。


ほんまやな、と隣の彼も声をあげて笑う。


「今夜、星多くないですか?」


「せやな、多いかもな」


それからは二人で何も言うことなく夜空を見上げていた。


不意に千羅さんが言葉を発した。


「月が…綺麗やな」


彼を見るとその瞳に捕らわれ、逸らすことが出来なくなった。

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kne(プロフ) - 感動しました。 続き楽しみです。 (2021年9月28日 20時) (レス) id: ee34aec55d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奏斗 | 作成日時:2020年2月12日 17時

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