新歓 ページ8
そして、夕方。
取引先で思いの外、時間を取られてしまった私と千羅さんは、そのまま新歓が開かれる居酒屋へと向かうこととなった。
「いやぁ〜、電車で行ってて良かった!車やったら1回帰らなあかんかったもんな」
駅のホームで千羅さんは何飲もっかな、なんて上機嫌だ。
まだ飲んでもないのに、少し出来上がってるみたいで可笑しくてつい声に出して笑ってしまった。
「あー、今俺のこと見て笑たやろ?」
「すみません、だって楽しそうなのが伝わってきたから、お酒好きなんだなって思って」
「お酒、好きやよ。でも飲みすぎんようにせなな」
Aお酒弱そうやもん、とけらけら笑う千羅さんは居酒屋の場所を検索して、此処やって、とスマホを見せてくれた。
「へぇ、結構駅に近いんですね」
そんなこんな話しているうちに目の前に電車が停まった。
時間が帰宅ラッシュということもあってか、車内は非常に混雑しており、押し潰されるかと思った。
痴漢もいるのではないかと思った私は、
「女性用車両に行きますね」
「そないなこと言うて、いざはぐれたらどないすんねん。Aは仮にもこの新歓の主役やぞ?俺が守ったるから、此処に居り」
彼は私の手を引いて、電車に乗り込んだ。
車内では、ずっと千羅さんが自身の身体を盾にして私を守ってくれた。
時折、大丈夫か?苦しないか?と訊きながら。
千羅さんの優しさは入社当初から変わることはなかった。
きっと誰に対してもそうなんだろうな。
そんなことを考えるだけで胸が痛んだ。
こんな感覚……久し振りだった。
あぁ、もう恋は…男の人は懲り懲りだと思っていたのに。
神様が存在するのならば、なんて意地悪な仕打ちをなさるのだろう。
私は今、どうしようもなく彼に、千羅さんに惹かれてる…気がする。
「A、顔赤いけど具合でも悪いんか?」
「いえ、大丈夫です。人が多くて暑くなっちゃいました」
優しくしないで欲しい、その優しさに溺れてしまう。
千羅さんも人気な人だから、選り好み出来る人だ。
きっと、私は「1人の後輩」にしか思われてない。
同時に
どうせ男の人なんて皆同じだよ
自分の種を残すことしか考えていない
という思いが流れ込み、今までの経験が、深く私に棘を突き刺して心の傷を抉る。
「お、そろそろ着くな」
千羅さんの声とともに車内のアナウンスを耳にした。
あんな思いはもう二度としたくない。
神様、それでも彼を思いたいと思うのは駄目ですか?
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kne(プロフ) - 感動しました。 続き楽しみです。 (2021年9月28日 20時) (レス) id: ee34aec55d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奏斗 | 作成日時:2020年2月12日 17時