* ページ4
昼休みを告げるBGMが流れた。
営業課を出る頃、千羅さんはスマホを見ながら難しい顔をしていたことが気になり、何かできることがあれば力になりたいなんて考えていた。
「今日は出来そうにないな」
千羅さんは少し残念そうに呟くと、再びスマホを弄り始めた。
「A!」
聞き覚えのある大声がした方を見ると、葵君が手を振っていた。
彼のもとへ駆け寄ると、彼は腕時計を見やり、待っていましたとでも言わんばかりに私の手を引いて社食へと導いていった。
各自、好きなメニューを注文し席に着く。
私は鯖の味噌煮定食を、葵君は豚の生姜焼き定食を選んだ。
「え〜、美味しそう。私も生姜焼きにすればよかったかも」
味噌のかおりに誘われて注文したのはいいものの、葵君の生姜焼きの色合いも食欲を刺激した。
「サバの味噌煮も美味そう…あ、一口ずつ交換すればいんじゃね?」
「え、いいよ!そんなことしなくてもまたの時に食べればいいし」
「俺、今食べたいんだよね……もーらいっ」
葵君はそう言うと、私のお皿に生姜焼きを1切れ置き、そのまま味噌煮を一口食べた。
強制的におかず交換の形をとることになってしまった。
異性とおかずの交換など、元カレとのデート以来していなかったし、そもそも付き合っていないのにこんなことしていたら、葵君を狙う女子から刺されるのではないかとも思った。
「ねぇ葵君、葵君人気あるから、今女子社員の視線が痛いんだけど」
堪え切れず、目の前の彼に声をかける。
彼は、表情1つ変えずに、
「言いたい奴には言わしときゃいいし、何かされたら俺がビシッと言ってやるから心配すんな」
と言って、再び視線を下に落としてご飯を口に運んだ。
食べ終わり、私たちはその場で雑談をしていた。
彼は、意外なことにマンガ、アニメやゲームといったサブカルチャーが大好きでとても会話が弾み、終始笑っていられた。
机上にある葵君のスマホに通知が来た。
「え、センラさん今日配信しないんだ…残念」
「センラさんって、あの千羅さん?」
私がきょとんとしていると、葵君は驚いた表情を向けてきた。
「えっ、A歌い手知らないの!?」
歌い手…?
葵君は私の隣に座り、自分のスマホを見せてきた。
「俺、浦島坂田船ってグループが好きなんだよね。うらたぬき、志麻、となりの坂田、センラの4人組!俺が好きなのは志麻君!」
彼の目の輝きようを見たら、本当に好きなんだということが伝わる。
450人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
kne(プロフ) - 感動しました。 続き楽しみです。 (2021年9月28日 20時) (レス) id: ee34aec55d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:奏斗 | 作成日時:2020年2月12日 17時