嘘恋-ウソコイ-【BL】 (ページ5)

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3話ページ5

家に帰る。
表札に【心戒】と書かれた、大きな家に。

「お帰りなさいませ」

庭の掃き掃除をしていた人が。

「お帰りなさいませ」

家の拭き掃除をしていた人が。
俺を見てそう、頭を下げる。
……世界有数のトップ財閥の1つ、心戒財閥。
そんな家の跡取り息子、となれば当然の事かもしれないが。

「……ただいま。……父さんは? 」
「まだお戻りになられておりません。……何か連絡が? 」
「いや、テストの結果を報告しようと思ったんだけどね」

この家に女は居ない。
母さんが亡くなってから、父さんは女の使用人を全てクビにした。

「そ。……満点? 」
「ん」

よって、使用人との距離は大分と縮まる。
けどまだ仮面は外さない。
どこで父さんが見てるか。誰が父さんに教えるか。
俺はまだ見極められないから。

「……部屋に戻るよ。父さんが来たら呼んでくれる? 」
「了解」
「分かった」

使用人にそう告げ、俺は部屋へと急ぐ。
早く仮面を外してしまいたい。

「……っはぁ。……だり」

部屋に滑り込み、鍵をかける。
ｶﾞﾁｬﾝ,と。それが仮面を外す合図。
使用人がセットしてくれる髪の毛をくちゃくちゃにし、鞄を無造作に放る。

「……はぁ」

意図せず溜め息が漏れた。
どうやら使用人達との会話で精神を疲労していたらしい。
ベッドに座ると、眠気が襲ってきた。
その波に逆らわず、俺は布団にくるまった。

「……A!! さっさと起きんか!! 」

耳元で無遠慮に鳴らされる大声。
近所迷惑。……とそこまで考え、うち近所居ないなという結論に達した。
目を開けると、父さんが俺の事を見下ろしている。

「……お、お帰りなさい父さん」
「ただいま。……昼寝をする暇があるのか」

いいご身分だな。と父さんが続ける。
その目には、怒りや哀れみが含まれてこそすれ愛情が含まれていることはない。

「……申し訳ありません。先日のテストで5教科とも満点を取りましたので、少し油断しておりました」

一応謝るが、中に皮肉も混ぜておく。
この人は気付かないだろうが。
財閥の社長である父さんは、実子に対する愛情が欠損している。
将来心戒家を背負ってたてるものなら、誰でも良いのだ。
だから、俺は優等生であらなければならない。不良だとバレたら、心戒家が継げなくなってしまう。

「……ふん。謝るしか能の無い……」

父さんはそう言って、部屋から出ていった。

「……くそ親父……」

そんな俺の呟きは、誰に聞かれるでもなく消えていった。