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てごし、てごし。
薄暗い部屋。
とびらの向こう側、俺を呼ぶ声がした。
「……なに?」
「はやく入っておいで」
慶ちゃんの声だ。
優しくて、楽しそうな声。
「、うん」
目の前にあった、スライド式のドアを開ける。
金属の取っ手が冷たい。
そこには、見覚えのある景色が広がっていた。
しろいベッド。
しろい天井。
白衣を着た、主治医の先生。
……そして、点滴。
全部、俺にはもういらないはずのもの。
喉の奥がぎゅうっと締めつけられたように苦しくなる。
「遅かったね。なんかあったの?」
まっすーに頭を撫でられる。
慶ちゃんも、離れたところで俺たちをみている。
「立ってて大丈夫かよ。ほらはやく、」
「え、まってなに?」
にこにこ笑うシゲに手をひかれる。
……シゲだけじゃない、慶ちゃんだけじゃない。
まっすーも主治医の先生も、
みんなみんな、笑ってる。
その光景は、正直不気味で。
慶ちゃんはいいとして、まっすーまで俺を甘やかしてこわれものみたいにあつかうなんて。
……それなのに、どうしてそんなに無機質な声で俺を呼ぶの?
「ゆっくり休まないとな」
「え?俺、もう大丈夫だけど」
「なに言ってんのてごちゃん。大丈夫じゃないでしょ?」
「は?慶ちゃんこそなに言ってんの、俺退院したし」
「はいはい。ほらはやく休みなよ」
「、まっすーまでなに言ってんの?みんなおかしいって……」
「おかしいのはてごしでしょ」
無理矢理ベッドに寝かされる。
おかしい、おかしいよ。こんなに強引に休まされることなんてなかった。
ていうか俺、もう退院してるし。
「すみません手がかかるやつで」
「いやいや、大丈夫ですよ。じゃあご飯食べてくださいね。待ってますから」
「え、は?ちょっと待ってください、」
「手越、わがまま言ってねえで食えよ」
「……シゲ?」
「お医者さん困らせたらだめでしょ」
「……慶ちゃん、」
「食べなきゃ元気にならないよ」
「まっすー……、」
こんなの、こんなのシゲじゃない。慶ちゃんじゃない。まっすーじゃない。
……でも、
みんな、ほんとは。
めんどくさいって……そう思ってる?
食べたくないなんて、食べられないなんて、わがままだって思われてるのかな。
みんなは、俺のこと───。
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ふわり(プロフ) - いちご一会。さん» いちご一会。さん〜!そんなに愛していただけるお話になったんですね( ; ; )たくさん悩ませて、辛い思いをさせてしまった彼らがどんな道に進むのか、私自身も楽しみです。笑 ご期待に応えられるよう頑張ります!文章好きって言われるの弱いんですよ〜泣いちゃう……! (2018年5月11日 19時) (レス) id: 813d20c216 (このIDを非表示/違反報告)
いちご一会。(プロフ) - ふわりさん…!長い間更新お疲れ様でした!たくさん楽しませていただいてきたこのお話が完結してしまうのは、正直言ってちょっぴり寂しいですが、それ以上にふわりさんの書くNEWSくんたちがどんな未来に進むのかすごく楽しみで…!ふわりさんの文章が大好きです! (2018年5月8日 2時) (レス) id: 7f4c96fff5 (このIDを非表示/違反報告)
ふわり(プロフ) - ルルさん» はじめまして、コメントありがとうございます。返信、とっても遅くなってしまってごめんなさい!(>_<)本当ですか……!私もルルさんの作品、とても楽しく読ませていただいています。更新も返信もすごく遅くて申し訳ないです……テストが終わったので頑張ります!(^^) (2018年3月1日 16時) (レス) id: 813d20c216 (このIDを非表示/違反報告)
ルル(プロフ) - はじめまして。ふわりさんの作品楽しみに読んでます。何度も読み返しています。これからも応援しています。 (2018年2月12日 21時) (レス) id: e15aaf7d8e (このIDを非表示/違反報告)
もも - 大好きという言葉では表しきれないくらいです!何度見ても同じ所にほのぼのしたり泣きそうになったりしてます。 (2018年1月30日 22時) (レス) id: d9ae80f945 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふわり | 作成日時:2017年11月10日 23時