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「だから、『私』の名前を知っているのは、もうこの世にあのひとだけだったんです。でも、あのひとは『私』も連れていってしまったから。…ふふ、そう考えると悪くないかもしれませんね。あっちで、もう一度親子として暮らせているかも」
「君は…!!…すまない。君は、何故、そんな…」
「気遣ってくれてありがとうございます。あのひとの依頼もこれで終わりでしょう。ごめんなさい、最後まで報酬を払いきれなくて。地下のシェルターはきっと無事だろうから、せめてそこにある分の物資だけでも持っていってください」
何か言葉を返そうとした。けれど何も出てこなくて、意味もなく顔を覆った。
フォーサイト財団への恨みがまた一層強くなった。でもそれ以上に、目の前の少女が痛々しくてたまらなかった。バイク特有のエンジン音が遠くから聞こえた。メイスが氷を運んできた。その大きな氷は、偶然ブリーズフォースの痕跡であろうところで見つけたのだという。氷を、というボスの命令であり、背に腹は変えられないからと運んできた。
「ボス、その女は…」
「…依頼主の娘だ。この通り酷い火傷を負ったからか、幾分か記憶が抜け落ちてしまったらしい。自分の名前もわからないようだから、村に連れ帰ろうと思う」
「それは…いえ、ボスが決めたことなら」
「そうか、ありがとう。…君も、それでいいかい?」
患部を氷で冷やし、割いた毛布で縛り固定をしながら問いかけた。少女は緩やかに頷き、「ありがとうございます」と言葉にした。
「呼び名を決めようか」村の子供達にするような明るい声で呼びかけた。少女がまた頷く。「僕が決めても?」頷く。「Aはどうだろう。」頷いた。
決めた名前に特に意味はなかった。シャルロッテとは擦りもしない名前であり、彼女が本当の名前を取り戻した時にパッと捨てれるよう、適当な名前を付けた。
「傷が痛んだら言ってくれ」
リオは、Aを抱えたままバーニッシュフレアで作り上げたバイクに乗り込んだ。後ろでメイスが何か言いたげな視線を向けているのはわかっていたが、気づかぬふりをして先に行こうとした。
「物資は…」気遣うような視線を向けるルーチェに、「あとで取りに来る」と答えると、彼女はほっとしたように意識を手放した。
ダメージと疲労がピークに達したのか、気を張っていたのが途切れたのか、きっとその両方だろう。
だらりと投げ出された手足をもう一度しっかりと抱えて、リオは村へとバイクを走らせた。
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作者名:Qoo | 作成日時:2020年8月13日 21時