ピカレスクロマン ―転―【ガスパー】 ページ10
「ええと、私がつけてしまっていいの？」
「おう！ いいぜ！」
「う、うーん……」
思った通りだ。この人間は人食いを目の前にしていながら、真剣な顔で大切なものを与えようと知恵を絞ってみせる。これは後にそうだと知ったのだが、こういう存在を世間はお人好しと呼ぶことがあるそうな。神妙な面持ちで考え込む人間の、まろい曲線を描く小ぶりの頭を、食前と比べ血色のよくなった頬を、これから自分につけるナマエを告げる唇を、怪物はずっと見つめていた。これもまた当たり前のことではあるが、怪物は誰かから大切なものを受け取るという経験も初めてだった。そも名前とは、原初にして永遠、単純故に強力なまじないである。
「……ガスパー。ガスパーなんてどうかな？」
だからだろう。怪物は今この瞬間、ガスパーなるものと相成った。在り方が変わったわけでもなんでもないが、嗚呼これこそがオレであると納得した。人食いにしてスライムらしき存在は、やっとこさ生まれ落ちたような気持ちになった。名前とは出生に贈られる祝詞である。仮初の胴の中央の、なんとも言葉にし難い曖昧な箇所が、喜びを糧に燃え上がる。
「おお！ ガスパー！！ いいぜ、オレはガスパーだ！」
確かに、確かに、これが大切なものであるのも道理だろう。多分やきっと、おそらくともしかして、そんな蜃気楼じみた己の存在に輪郭が伴う。自分の形がはっきりして、世界の中にパズルのピースのようにしっかりはめ込まれる。地に足がついた。爪先に口づける小魚はいないが、ガスパーはここに立っている。
顔を上げれば人間がガスパーを見ていた。ほっとしたような、ささやかに報われる喜びに浸るような、良い顔をしている。はてもさても、この人間は果たして。
機微に敏い人間は、はてと小首を傾げてみせた。どうしたの、と優しく問うてくる。これは本当に聡く心細やかであることだ。ガスパーは人間の真似をして、同じ方向へ少しばかり頭を傾けてみた。
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烏衣(プロフ) - 三日月リンさん» 閲覧ありがとうございます！わざわざコメントして頂いたのに申し訳ないのですが、メリーさんとアンナだとクラスが異なりますのでルームメイトは遠慮させてください……その代わりに、よく二人でアクセサリーを見に行くような友人関係を結ばせては頂けないでしょうか…？ (2018年10月21日 18時) (
レス) id: e4c92fe861 (このIDを非表示/違反報告)
三日月リン - コメント失礼します！よろしければうちのメリーとアンナちゃんをルームメイトにしていただけますか？ (2018年10月7日 12時) (レス) id: ac270a254f (このIDを非表示/違反報告)
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