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「人が悩むのは何故だと思う?」
「……わからない、から」
「わからないのは何故?」
「えっと……」
「俺は『あんまりよく知らないから』ってーのがあると考えてる」
フライ返しが三枚目をひっくり返し、きつね色の裏面があらわになった。きつね色になるのは過熱によって酸化する鉄の原理から考えればいい、のだと思う。よくわからない、あんまりよく知らないから、確かではないけど。でも酸化還元の原理に近しいものが関わっているのではと、考える。
「学校ってのは、基礎をよく学べる。応用の仕方もさもありなん。それをどう生かすかはお前や俺次第。学校の外で学校じゃ教わらないこと学ぶのも有りだ。マヨネーズとお好み焼きに相違点があるようなモン。クラスメイトとお前の未来の姿はお前らの見たもの聞いたもの考えたものによって変わる。……だが、基礎を知らないんならやりようが、成りようが無い」
卵のことを知らなければ、水と油は混ぜようが無い。多分そういうことだ。
「何があったのか、むしろなにも無かったからかは俺は知らない。だからお前の事情とか動機とかはわからないから、ぶっちゃけこんな話をしていいのかすら悩ましい。……初めて会った見知らぬおっさんのお節介だ、必要無かったならお好み焼きの味と一緒に忘れてくれな」
フライ返しがまた三枚目をひっくり返す。生の色はきつね色になっていて、しっかりと形が整っていた。
「サボタージュする時のアドバイスだ。人目につくところでふらふらするのだけはやめろ。すーぐお巡りさん来るかんな、漫画でもそうだろ?」
「漫画でも……?」
「あっ最近そんなにサボり描写無い感じ? いやいやでもでも、俺が高校生やってた時ゃ二次元も三次元もサボってるやついたし、捕まってんのは人目につくとこほっつき歩いてるやつだったぜ? だから俺は仮病使って真っ直ぐウチ帰った」
「なんだ、サボってるじゃないですか」
思わず笑う。カズラさんも笑った。学業に影響なくて上手くやれるならサボりもしていい、なんて彼が言う。僕は多分、今日がたまたま上手くいっただけだから、しばらくやらない方がいいかもしれない。
カズラさんがフライパンを揺すり掲げる。僕は二枚目を平らげた皿を両手で持って差し出す。淀み無い手つきでカズラさんは僕の皿に三枚目を盛りつけてくれた。
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