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「水と油は混ざらないだろ？」
「え、ああ、そうですね……？」
二枚目も半ば、カズラさんは一枚目を半分のあたりで、突然カズラさんは口を開いた。自然と食べる(加えて彼は焼く)ことに集中していたから、僕は愛想もなにもないような返事をしてしまった。それでもカズラさんは気にせずフライパンの中を見ている。さっき流し入れたばかりの、おそらく僕の三枚目。薄い黄色にキャベツと挽き肉がまだら模様になっている。
「でもこの生地じゃ混ざってんだ。水七百二十と挽き肉半パックの脂。金取る時はその他諸々の脂も」
「……混ざってますね」
肉の脂なんて大したことないし、そも小麦粉で液体じゃなくなっているからじゃないか、とは思う。だが僕はそんなことを言える立場ではないのである。白い陶器の箸置きに箸を置くと、カズラさんは気負うな、と言った。
「話半分でいい、カッコつけたいおっさんの話なんてそんなんでいいんだ。食べな」
お言葉に甘えて二枚目に箸を入れる。何も特別じゃない、おいしいだけのお好み焼き。カズラさんはこれに準えてどんな話をするつもりなのだろう。
「おんなじようにマヨネーズも水と油が混ざってる。これがヒントになるな」
「……卵」
ずっと昔、小学生の頃。家庭科の授業でマヨネーズを作ったことがある。お酢と砂糖と塩、水と油、そして卵。このお好み焼きの生地とマヨネーズの共通点も、水と油、そして卵だ。カズラさんは視線だけをフライパンから僕に移して、その通り、と言った。
「そいつがわかるだけの知識があり、それを応用できる。それが教養だ」
お好み焼きを切り分ける手が止まった。軋む機械のように、おずおずと、顔を上げる。香ばしかったお好み焼きの予想通りの味とは違って、カズラさんの表情はけろりとしていた。あっけからんと、ただただ三枚目を焼く片手間に、もしかしたら暇潰しを兼ねて喋っているのかもしれない。
でも、この人は何を考えているのだろう。
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