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「残すなよ、簡単お手軽つっても美味いんだから」
ああ、ただの普通の人のようだ。僕の強ばった表情の理由を、違うものだと思っている。何故だか肩の力が抜けた。それと同時に視野も広くなる。冷蔵庫から挽き肉のパックとラップに包まれたキャベツ半玉を出してくるカズラさんを横目に、僕は壁に掛けられた時計に目をやった。
午後十三時、七分。平日。僕は学校をサボっている。
*
斯くしてお好み焼きは完成している。焼けたばかりの一枚目に箸を刺し、一口大に切りながら僕はカズラさんの様子を伺った。フライパンに油を引いて、くるりと伸ばして回して、コンロに戻す。鉄板を使うものだと思っていたのだが、客一人なら面倒の一言で納得がいった。きっと、後始末が割に合わないのだ、たとえ六枚も焼くとしても。
お好み焼きの表面でマヨネーズと混ぜ合わせられ白くなったソースと、鰹節の匂いが鼻孔を擽っていく。青海苔の香りもわかる。何度も息を吹きかけて、それらを溢さないように口に運び入れると、やっぱり嗅いだ通りの味がした。具は千切りのキャベツと挽き肉だけだからむしろ食べやすい。極々普通、特筆するようなことの無いお好み焼き。僕にも作れそうだ。
「普通だろ?」
「あっいえ、おいしいです。ありがとうございます」
だがそんなことは言えない。相手はプロで、だから店を構えている。家庭科の調理実習くらいでしか包丁を持つことが無い、アマチュアですらない子供が普通だなんて言えるものか。僕と同じ立場で、おいしいけど普通の範囲内です、とかなんとか言えるやつがいるだろうか。そいつはなんて失礼なやつなんだ。
僕は普通の高校生だ。サボりも初めてで、小料理屋なんて小洒落たところにだって初めて来た。いや商店街でふらふらしていたらカズラさんに捕まって連れて来られたのだが。何故だか一飯の恩に預かってしまっているが、それゆえにものを言える立場ではない。カズラさんは大人だ、機嫌を損ねてしまえば学校に連絡をとられてしまう。そこから親に僕の所業が伝わり、大目玉を食らう羽目になる。僕は発言に気をつけなければならない。カズラさんの気まぐれのおこぼれに預かっているのだから。肩が強張るが、一枚目を完食した。
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