名前の無い心持つ者共へ【不定期更新】 (ページ2)

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欠片の恨みも抱かずに、男は復讐者の名を背負ってみせた。己を勝手で殺した村人共の、罪の意識を払うために。

なんという、歪みだろうか。本人としては単純明快かつ心からの善意で、献身で、かつて笑い合い遂に殺してきた者共の願うままに。

手指の冷たい男だったのだろうと思う。他に尽くすばかりの、己への報いを受け取ることを知らぬ、機械のようにつめたく正しく優しい愚者。

その広い固い背中に、どれだけの命を背負っていた？どれだけの願いを担ぎ、どれだけの言葉を刺されてきた？推測するに、男の生き方はあまりにも、砂の苦い味をにおわせるものだった。

「愚かなり。他から貰うことができぬばかりに、裏切りを案じられその身吊られた亡霊よ。己を殺めた者共の手に捕らえられ、地獄に往くもままならぬまま血色の途を進む莫迦者よ。

俺が、せめて。貴様の砂にまみれた悪夢を終わらせよう」

かつて聞いた、遠い国から遠い国へと降り立った守り人の話を、その守り人を。俺は愛していたのだ。

さあ英雄共よ、しかと聞け。この男の、砂を被り続けた守り人の唄をうたうぞ。貴様らのような煌めく譚とは程遠いが、現の代はこんなものだ。渇いた大地に二本脚で立つ者は最早いないが、貴様らの世にも斯様な男はいなかった。

「亡霊、貴方へ。一介の若造より。夢もみぬ程の深い眠りを」

灰色の宙に弧を描き、鮮やかな蒼の矢羽が、しなやかな篦が、輝く鏃が、俺の愛した男の胸を目指して翔んでいった。