【実況者】彼と邦ロックを奏でたら【短編集】 (ページ28)

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春色の君が【htrnrn】ページ28

舞い散る桜の中で

ひとらんside
三月の川べりに長年俺が想いを寄せている幼馴染のAと肩を並べて座る。

ここの桜は俺も好きで、一緒に見に来る。
ここに来る前に寄ったコンビニの袋にはチューハイとビール。ちょっとした花見感覚だ。
プシュッと缶を開ける音がさわやかで、青く晴れた空に響く。

一口飲んで少し顔の赤くなったAが『らんちゃんが恋人ならよかったな』なんて微笑んで言う。
俺にとってつらい残酷な嘘をAは簡単に言ってしまう。

缶を地面に置いて
まだ満開じゃない桜に手を伸ばして
近づいた整った顔で匂いをかいだりしてはしゃぐから。

心が弱くて
自分にも見捨てられるのが怖くて
さっきの言葉に弱気になって
「俺もだよ」なんて言えずに苦しくなる。

春の中で木々は揺れている。遠いおとぎの国に咲いている花のように。

あと何回Aに会えるんだろう。
その中でいつになったら想いを伝えられるんだろう。

いつか誰かのものになってしまうくらいならずっとそばにいた俺のほうが彼女にふさわしいんじゃないか。そんなことを花と戯れる彼女を見ながら考える。

無邪気な笑顔のAはまるで俺の彼女みたいで。

たとえハッピーエンドが遠くても。
それでも俺はAだけを見ていた。

『らんちゃんが恋人ならよかったなぁ』

いつの間にか隣にいて
もう一度さっきと同じ言葉をつぶやいた春色の彼女に俺は想いを伝えよう

(春の中で君も俺も揺れている
そんな不安定な関係に終わりを)

リリィ、さよなら｢春色の彼女｣より