心臓に悪い ページ8
「Aさん。こちらです」
「は、はい……！！」
「シラウオちゃ〜ん、こっちお願い」
「は、はい、ただいま！」
さすがモストロ･ラウンジと言うべきか、目も回るような忙しさだった。
双子の指示であっちへ行ったりこっちへ行ったり。
休む暇なんて無い、重労働だ……。
「めーっちゃヘトヘトじゃん。案外シラウオちゃんって体力ねーの？」
「す、すみません……」
「慣れていないんですから当然でしょう。何より女性なんですから、ねぇ？」
ジェイドさんがフォローしてくれたように聞こえるけど、その女性をこき使ってるのは、あなたもなんですよね。
「少し休んでいいですよ。客足も落ち着いて来ましたし」
「えー、オレ達がしんどくなるパターン」
ありがとうございますと二人に頭を下げ、私は少しの間、外に出ることにした。
「涼しい……」
風に当たるのは好きだ。実家が山の木陰にあるものだから、必然的に心が落ち着く。
「にしても、やっぱり凄かったな。モストロ･ラウンジのお料理……」
私の出る幕なんて無いんじゃないかと思うほど美味しそうで、色んなメニューがあった。
どれも海の幸を使っていたり、綺麗な青に彩られていたり……私は食べたことは無いけど、オクタヴィネル寮らしい料理ばかりだった。
「私が新メニューを考える……か」
困ったなぁ、とため息をつく。うちのお店でもメニューなんて考えたことがない。アズールさんにはそんなの知ったことじゃないんだろうけど、あまり過大評価されても……。
「……海の幸？」
店内も料理も、保っているのはオクタヴィネル寮の言わば“イメージ”だ。
思いついたものがあるけど……それがイメージを良い意味で壊してくれるか、どうか。
「賭けだなぁ……」
お父さんは山奥のお店で、山を登ってきた人に料理を振る舞っている。
夏は陽射しの暑さを忘れるような涼しいデザートを。冬は雪山の寒さを消すような温かい料理を。
「お父さんは、全部の料理に“山の幸”を使ってるから……それを融合させる？」
上手くいけば……でも、モストロ･ラウンジには、さすがに不似合いかな……？
「なるほど。山の幸ですか」
「っわぁ！？」
すぐ近くから降ってきた声に、私は思わず飛び上がった。
ジェイドさんは足音を消す天才なんだろうか。ニコニコ笑っているけど、心臓に悪い。
「すみません。驚かせるつもりは無かったのですが、考え事に集中していらっしゃったので」
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