秘密主義の魔女は水底へ……【ツイステ】 (ページ1)

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こんな平和な日常はページ1

「Aー！おはよっ！」

　教室に入るなり、クラスメイトのエースくんに肩を叩かれた。

「あ……お、おはようございます！」

　相変わらずだけど、あまりの距離の近さに少しビビる。男子と至近距離で話すの慣れないな……。

「敬語じゃなくていいってー。同い年なんだからさ」
「あ、ありがとうございます。でも、僕はこっちの方が落ち着くので……」
「そう？なら良いんだけど……お、来た来た。おーい、ジュース！！」

　遅れて入ってきた男の子――デュースくんは、「誰がジュースだ！！」と一喝。いつものようにエースくんとの口論が始まっていた。

「あはは……二人とも、ほどほどに……」
「……ん？そう言えば、A。グリムは今日は休みなのか？」

　デュースくんに訊かれる。いつも騒がしく口論に参加してくるグリムだけど、今朝は様子がおかしかった。

「それが……起こそうとしたんですけど、何故か『ツナ缶……ツナ缶……』ってうなされてて。何だか顔色も悪いので、大事をとって休ませることにしたんです」
「そうか、お大事に。……というか、ツナ缶？それって悪夢じゃなくて、むしろ良い夢なんじゃ……」
「オレもそう思ったー。ホント珍しいよな、馬鹿は何とやらって言うのに……」

　グリムとは同じ建物で二人暮らしをしている。
　オンボロ寮。ナイトレイブンカレッジ唯一の、二人しか寮生のいない寂しい寮だ。

(まぁ、もちろんその方が良いんだけど……)

　何故オンボロ寮に住んでいるのか、エースくんとデュースくんには話していない。学園長とグリムしか知らないことだ。

　それから、他でもない僕――“私”自身と。

「やっべ！授業始まる！」
「本当だ、話し込んでる場合じゃなかった！席に戻らないと」

　慌ただしく席に戻る二人の背中を見送った。
　こんな平和な日常は、なんと次の瞬間、大きく崩れ始めることになる。

(……あれ？指先に何か当たった……？)

　机の中に何かが入っている。
　取り出してみると、四つ折りにされた小さな紙だった。

(な、何だろう……)

　水底のような深い青色の便箋に、光を反射させる銀のインク。

『お前の秘密を知っている』

　筆跡が分からないようにするためなのか、覚えたての子供が書いたような文字が並んでいる。

『放課後、中庭の林檎の木の下で待っている』

　……とんだ脅迫文を送りつけられたものだ。
　人生が終わる予感を迎えながらも、私は何食わぬ顔で授業の準備をし始めた。