【小説版】終末世界の彼ハ誰時 (ページ19)

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◆16.祈れ/幽谷佑月ページ19

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誰もいない静かな屋外でゆっくりと、黄昏始める空を眺めていた。
いつも通りに通勤して来て、いつも通りのデスクワークをこなし、少しの手当てをして、休憩時間には阿月君達と話しながら軽いジョークでも飛ばす。
今日も今日とて変わらない一日が終わるのだと思っていた。

──突如としてそれは崩れ去ったのだが。

6時半を少し過ぎた頃。
急にそこらが騒がしくなり始める。
人々の話し声ががなり声に変わり、この普段は聞こえない静かなところまで幽かに届いた。空に反響するように響くサイレン。
この騒々しさは既に知っているものだったし、二度と来るなと思っていたものでもあった。
つまり、それは。

レイドロイドの侵略を意味していて。

代わり映えのしない一日が終わるかと思いきや、それを消して許してくれそうになさそうな騒がしさに内心頭を抱えそうになる。

「はは、なんですか、これは。
神様からのジョークとでも……？もしそうならばジョークのセンスは足りませんねぇ」

ポツリと呟いてみても変わるはずもなくて。
空虚に消えたその言葉を聞いてくれる彼女(秋津君)も今は出ているのだろうか。
遠くの方で見え始めた煙を横目に一瞥し、屋内に戻ることにした。

◇

局内はすでにドタバタと騒がしくなっていた。
局員があちらこちらへと走り回り、戦闘部隊ももうすぐに出動するだろう。

少々したところで作戦部隊の彼の声が備え付けのスピーカーからなる。
やはりかと思い、自室──医療部隊に割り当てられた部屋に戻る。
阿月君はいつもの席にいて天童さんも少し遠いところにあるデスクにいた。

──いつだって、こうだった。

いつも思っていた。
自分の異能は到底戦場に出て戦えるような大層なものじゃない。
いつだって、後ろにいた。ここに来たって守られる立場は変わらなかった。
それでも、自分にもファインダーという存在はいて、その人は、その人だけは守ってみせると何かが言っていた。

医療部隊はいつも待っているだけ。
普段のその業務は訓練中の人のサポートなどや健康診断などでしかなく。

むしろ、本業は無い方が良い。
怪我人が居ないと本領発揮のできないという存在自体がどう考えても不吉だった。
しかし、いないとどうにもならない。

そういうことでいつも許されている気がする。
だから、祈ることはただ一つだった。

チャリ、となるロザリオを左手で握りしめ、呟いた。

「嗚呼、神様」

さぁ、祈れ。