【小説版】終末世界の彼ハ誰時 (ページ18)

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◆．猫と彼奴の命/花園瑠羽ページ18

「チッ…」

舌打ちをしながらその大きな拳を躱す。
私にとって熊型は独りで戦うのは初めてなレトロイド。
一瞬でも勝てると過信してしまった私が馬鹿だった。想像以上に強い。
元来力があまりない私には熊型の攻撃を太刀打ちできるなんて到底出来ない。
伊万里がいれば別だったけど、今は隣どころかどこにいるかも確認できていない。

一撃離脱。
不意に後ろに見えたうざったいあの姿。
朝重春日。
誰かと連絡を取ってるみたいだけど…
それより気になるのはその後ろの猫。
そこで小型内線の向こうからノイズと声が聞こえた。
一時的にレトロイドから間合いを空ける。運がいいのか悪いのか後、数㍍で春日に届きそうな距離に付いた。

「此方作戦部隊。花園瑠羽、聞こえていますか？」

「聞こえてます。作戦部隊、用件は」

一歩一歩と近づいてくるレトロイド。正直もっと静かに振動を加えずに歩けないのか。
そう思いながら作戦部隊の声に耳を澄ます。
その声に耳を疑った。

“猫型のレトロイドは自爆する”

っていうことは＿＿＿＿＿＿＿＿＿

間違いない。目の前で武装を始める猫。
紛れもなくそれは春日の至近距離で武装を始めていて、更に春日はそれに気づいていない。
このままだと、春日の首は完全に吹っ飛んで最早原型すらとどめないほどにぐっちゃぐちゃになるだろう。

確かに春日は憎いし嫌いだし気に喰わない。けど。
目の前で死なれるのは流石に後味が悪い。苦虫を噛み潰したような気持になるんだろう。それは避けたい。
私はため息をついた。まさかこんな状況で嫌いな奴を助けなきゃいけないことになるなんて。
本当に最悪。
でも、本当に死なれるのは困る。暇つぶし相手が居なくなるから。

「春日！！！！！」

「あ”ぁん！？花園ォ！？んでいんだよ！」

「うっさいなぁ～、一寸は黙れないのこの餓鬼。ちっとそこの熊型抑えといて」

「はぁ！？ちょ、仕方ねえなぁ。借り一つだからな？」

「その借り、今から返すから別にいいですよ～だ」

そのまま春日を横切り、近くにあった樹木に触れた。
樹木は真ん中を大きな口の様に開けて中から無数に飛び出てくる手のような枝達で猫型を包み込んだ。

「ごめんね…この世界の平和のために…貴方の命を貸して」

樹木に接吻をした。
その瞬間、樹木が爆破する。被害は最小限にとどめられた。
儚い命が粉々になって塵となって灰となって原型を留めることなく綺麗に命散っていく事には変わりないけど。