ああ、やっと ページ6
初めて聞いた気がしない、不思議な感覚がした。
それを確証づけるのは、胸の底から込み上げてくる愛しさ。
心做しか切なさを孕んだその旋律を奏でているのは、一人の少女だった。
白いワンピースの少女は、草むらに囲まれた崖沿いの場所に佇んでいた。その姿を見た瞬間、司の心臓は大きく跳ね上がる。
ああ、やっと見つけた――逸る気持ちを抑えてそろりと近寄ると、気配を感じたらしい彼女が控えめに身を翻す。
「A……か……？」
らしくもなく震えた声で名前を呼ぶ。
想像していたより、ずっと綺麗になっていた幼なじみの姿に息を呑む。
「――つ……、……」
その端正な顔を驚愕の色に染めて丸い目を大きく見開いてみせたものの、彼女は司の言葉に意味を持った返答をすることもないまま、ただ視線を返すだけ。
二人して開いた口を噤んでしまえば、静寂が訪れた。
「ええと……こ、こんにちは。きょ――今日はいい天気ですね」
先に根負けしたのは、少女の方だった。ぎこちなく微笑む彼女に、司の表情が強ばっていく。
タチの悪いドッキリか、はたまた夢でも見ているのだろうか。
あたかも初対面の人と接するような彼女の態度は、司にとってあまりにも衝撃的すぎるものだった。
無言で歩み寄ると、少女は小さく驚いたような声を上げ後ずさる。
「……！ 危ない！」
「へっ？ ひゃっ……！」
地面の段差に気づかないまま後ずさり続けようとした彼女の手を、司が慌てて掴む。
そのままぐいっと引き寄せると、バランスを失った身体が倒れ込んでくる。反射的に抱き留めてしまったせいで、司の腕の中に収まる形になった彼女は困惑気味に顔を上げた。
「横転まっしぐらだったぞ！？ まったく、危なっかしいな……」
「わぁっ！？ ごめんなさいごめんなさい！」
呆れたように呟く司に対して、少女は顔を真っ赤にしてそう謝りながら飛び退いた。
しかし、すぐにハッとした様子で司の顔を見上げ、恐々と口を開く。
「電話……いいんですか……？」
「ん？ ……あっ」
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作者名：あきいろ | 作成日時：2022年9月18日 8時
