ありがとう ページ48
「お、おじゃまいたしますっ」
「緊張しすぎだぞ。これからはただいまと言うように！」
ぎこちない動作で靴を脱いだAに対し、司が笑みをこぼしながら言う。
病院から退院して、今日からはここで生活することになるのだ。Aは胸の高鳴りを抑えきれずにいた。
「――Aちゃん、おかえりなさい」
「……！ おばさん……きょ、今日からお世話になります！」
「無事で帰ってきてくれて、本当にありがとう。司も咲希も、それから私も。あなたが帰ってくるのをずっと待っていたのよ」
涙ぐむ天馬母に抱擁され、Aもまた泣きそうになる。しかし、司達に見られているところで泣くのが恥ずかしくて、なんとか堪えていた。
「ほんとに……ほんっっっとーに、多大なるご迷惑をおかけしました……！ 特に司くん……」
「いいのよ、無事に帰ってきたんだもの。ね、司」
「無論！！ それにオレは、お前のことを迷惑だなんて思ったことは一度だってないぞ」
「うんうん、アタシもアタシも！」
暖かな言葉をかけられ、Aの瞳にまたじわりと涙が浮かぶ。
「……ありがとうございます……っ！！」
感極まった彼女はそう言い、深々と頭を下げた。
「ふふ、そんなにかしこまらなくてもいいのに。Aちゃんのお部屋はこっちよ」
「はい……！」
案内された部屋は物置代わりに使われていたらしいが、埃っぽさなどは全くといっていいほどなく、綺麗に掃除されていた。
「ここを好きに使っていいからね」
「みんなが来るまでなまえちゃんはゆっくりしてて！ パーティーの準備はアタシ達がやるから！」
「えっ、でも……」
「なまえちゃんおかえりの会なんだし、主役は座って待ってればいいのだ！」
遠慮しようとするAを、咲希は半ば強引に押し切る。
「そういうことだ！ お前は部屋で休んでいてくれ」
「お母さんも張り切っちゃおうかしら？」
腕をまくりながら部屋を後にした天馬親子の背中を見送りながらベッドに後ろ向きに倒れ込んだAは「……うれしいなあ」と独りごち、目蓋を閉じた。
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作者名：あきいろ | 作成日時：2022年9月18日 8時
