気がかり ページ26
「――ん……？」
「司くん、そろそろ出番だよ」
「あ、ああ、わかっている」
彼女を見ることができたのは一瞬のことだったが、司にはどうにも、Aが何か複雑そうな表情をしているように見えた。
類に声をかけられてステージへ向かうが、先程のAの浮かべていた表情が気がかりでならなかった。
とはいえ公演の最中だ。今はとにかく、目の前のことに集中せねばなるまい。
そう考えることで気を取り直し、司はスポットライトの下へ歩み出た。
――その時だった。
「だ、大丈夫ですか……！？」
「医務室は外です、私が連れていきます！」
ざわめきとともに客席から突然聞こえてきた声の方を見ると、Aが倒れていたのだ。
傍にいたスタッフがAを抱え上げ、足早に去っていくのが見える。
その光景を目の当たりにした司は、思わず呆然としてしまった。
そうは言っても、スターとしてショーを中断させてしまうわけにはいかない。そう思ってなんとか動揺を押し殺し、いつも通りの振る舞いで演じ続けた。
そして幕が下り、ショーが終わった後のこと。
「司くんっ！ Aちゃんが……！！」
「医務室に運ばれてったよね？ ……無理、してたのかな」
えむと寧々の声を聞いて、ハッと我に返る。
「オレは様子を見に行く、悪いが後片付けは頼んだ。本当にすまない！」
「待って、司くん」
それだけ言い残し、急いで走り去ろうとした司だったが、類に呼び止められて立ち止まる。
振り返ると、類が持っていたのは司のスマホだった。
『司、くん……わたし……！』
セカイのAがホログラムの姿になって現れ、号泣しながら司に訴えるような視線を向ける。
「……お前はきっと無事だ。スタッフの対応だって迅速だったし、問題はないはず――」
『違うの！！』
司の言葉を遮るように、Aは叫んだ。
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作者名：あきいろ | 作成日時：2022年9月18日 8時
