選ぶ権利 ページ20
「それで目が覚めたら、ベッドにいて……房江さんにすごく迷惑かけちゃったので、もうこんなことしないって決めたんです」
そう締めくくると、Aは苦笑いを浮かべた。
「……みなさん?」
四人はしばしの間押し黙っていたが、えむがAに飛びついていったことで沈黙を破った。
「あたし!! ぜーったいにAちゃんを、とびっきりの笑顔にしてみせるからっ!!」
「……うん。わたしも手伝わせて欲しい」
えむに続いて寧々が力強く宣言すると、司もそれに続く。
「ああ、オレ達が今ここにいるのは、お前に笑顔になって欲しいからだ。Aが心から笑えるように、全力を尽くすと約束しよう」
「……それでだけど、Aくん」
神妙な面持ちで切り出した類が、Aを見据えて言った。
「これから君は、どうするつもりだい?」
「……どうする、って?」
「君を探し続けてきた司くんのもとへ帰るか、この場所で暮らし続けるか――君には選ぶ権利があるってことだよ」
その言葉を聞いた瞬間、場が静まり返る。少しして、我に返った司が慌てて口を開いた。
「Aはまだ記憶を失くしたままなんだぞ!? そんな状態で選ぶなんて……それは本当に正しい選択だと言えるのか?」
今のAに残っているのは、司との記憶を失ってからの二年間。
房江とこの場所で過ごした記憶しかない彼女にとって、司のもとへ帰る理由はないに等しかった。
『忘れてしまったから』という理由だけで、二年間求め続けてきた彼女との日常をあっさり切り捨てなければならないなんて、納得できるわけがない。
「とはいえ、僕らだっていつまでもここにいられるわけじゃない。Aくんが答えを出さなくちゃいけないんだ」
「私が、答えを……」
類に言われて、戸惑いげに司達を見回す。
不安そうな表情をしているえむと寧々。司に至っては顔色が悪い。
「……私は」
数秒ほど悩んだ後、Aは伏し目がちに言った。
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作者名:あきいろ | 作成日時:2022年9月18日 8時