家出 ページ18
一念発起して一日目の公演を成功に導いた司達。やっとの思いで、Aが房江と暮らす家にたどり着く。
呼び鈴を押してから間もなくドアが開き、中からAが顔を出した。
「みなさん――今日もわざわざ来てくれてありがとうございます」
ぺこりと頭を下げた後、「さあどうぞ」と家の中に案内される。リビングに通されると、司達の方を振り向いた房江が微笑んで言った。
「お待ちしていましたよ」
「すみません、こんな時間に押しかけてしまって」
温泉街の劇場でショーをやっていたことを説明してから、司は頭を下げる。
「まあ……そういえば、ショーをやるという目的でこの辺りに訪れたって言っていらっしゃいましたね。お昼に来られても今日はお仕事で対応出来なかったはずなので、むしろ丁度よかったですよ」
柔和な笑みを浮かべて応じた房江は、次いでAの方を見た。
「お夕飯は私が作るから、お話していていいですからね」
「え、でも房江さ」
「みなさんもどうぞごゆっくり」
Aが止める間も無く、キッチンへ向かう房江。申し訳なさを表情に滲ませながらも、彼女は司達に椅子を勧めた。
「早速だけど、聞きたいことがあるんだ。いいかな?」
「はい、なんでしょう」
類の問いかけに対し、首を傾げるA。司は不安げに眉根を寄せながら、口を開いた。
「たまに原因不明の頭痛に襲われることがある、と言っていたな。最近はどうなんだ?」
「最近……一度収まったかと思われたんですけど、まだ時々痛むことがあって……」
「それについて、もっと詳しく聞かせて! 一番酷かったときとか、どんな感じだった?」
えむの食いつきように一瞬驚いた様子を見せたものの、Aはゆっくりと語り出す。
「本当に酷いときは……もう、何もかもがわからなくなって、頭が割れそうなくらい痛み出して、立っていられなくなるんです」
そう語る彼女の顔色は悪い。無理もない。相当辛い思いをしてきたのだろう。続けてえむが尋ねる。
「何してたときだったの?」
「……えっと、それは……」
言い淀むAだったが、やがて意を決したように答えた。
「――家出、したときでした」
「…………家出!?」
予想外の返答に司達が目を丸くする中、Aはその日のことをぽつりぽつりと語り始めた。
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作者名:あきいろ | 作成日時:2022年9月18日 8時