生きてるかどうかすら ページ12
「彼女の本当の名前は、A――AAといいます。僕の大切な……大切な人です」
「そう……そうなの……Aちゃん、いい名前ね――ゴホっ……ゲホッ!!」
咳き込む女性の背中を摩り、Aが優しく声を掛ける。
「房江さん、お部屋に戻りましょう? 休んでいた方がいいです」
「でも、それじゃ永子ちゃ――Aちゃんは……?」
「私、は……」
惑うような視線を司達の方へ寄越すと、ふわりとピンク色の髪を揺らしながらぴんと手を伸ばしたえむが明るく言う。
「おばあちゃんは横になってていいと思う! だから、みんなでゆっくりお話しするのはどうかなー?」
えむのその提案は難なく受け入れられ、女性――元い、房江の寝室へ移動することになった。
ベッドに横たわる房江を囲んで座った司達。まずは司がAを二年間ずっと捜し続けていたことや、今に至るまでの経緯を簡潔に伝えた。
「……よかった。Aちゃんにも帰るところがあって、頼れる人がいて――」
話を聞いた房江は感極まったのか、声を震わせながらAの頬を撫でる。
彼女はされるがままになっていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。
「……でも私、房江さんがいなかったら今こうやって生きてるかどうかすら怪しかったし」
「頑張って生きてきたのは、Aちゃんでしょう?」
「房江さん……」
二人の間に流れる暖かな空気。司達はただ、黙ってそれを見守っていた。
房江は二年前、事故が起きた時に道で行き倒れていたAを保護して、今日まで面倒を見ていたのだという。
その時点ですでにAの記憶はなく、自身の名前もわからなかったそうだ。
事故の被害者である彼女を、初めのうちはどこか公的施設に預けようと考えていた房江だったが――事故のショックで精神状態が不安定になっている上に記憶喪失だというAを見て、このまま自分が引き取ることを決めたらしい。
*『永子』っていう名前は『A子』の当て字です。すてきな響きのお名前ですよね。いわゆる仮名です(もうでてこない)
房江おばあちゃんはそれっぽい名前をつけただけです。まっっっったく重要じゃない
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作者名:あきいろ | 作成日時:2022年9月18日 8時