43.おはよう世界 ページ37
今日も目覚めない幼馴染の見舞いだ。
見舞い、と言っても何か持ってきたわけでもなければ話し相手になろうとしたわけでもない。そもそも目覚めないのだから食うのも話すのもできないだろう。
ベッド横のテーブルを見ると、少し豪勢なフルーツ籠とロリポップが三本、本が一冊と板チョコ、花瓶には黄色い薔薇、それから可愛らしい縦長の小箱が置いてあった。随分と選り取りみどりな状況に、お前好かれてんなと頭を撫でる。
椅子に腰掛け、ぼんやりとAの顔を見つめる。ああ、睫毛長かったんだな、とか唇乾いてんな、とか本当に何でもないことがちらちらと頭を掠めては消えていった。
カチカチと時計の針の音だけが部屋に響いている。いつものように片手を掬って、両手で握って、じぃっとその握った手を見つめた。
いつになったら目覚めるかなんてわからない。目覚めないかもしれない。ぐるぐるぐるぐると不安が募って押し潰されていく。次第に顔がくしゃりと歪む感覚が強くなって、俯いた。
冷えた手はそれでも脈を打っている。呼吸の音も聞こえる。胸だって上下している。大丈夫だ、生きている、生きている。
それでも不安は消えなくて、なんならべったりと張り付いた後悔まで連れてきた始末。そろそろ吐き気もしてきた。動悸だってしてきたし、息も荒い。じわりと汗も滲んでいる。
握る手の力が強くなって、縋るように額を擦り付ける。
嫌な想像が振り払っても湧き出てくる。このまま死んでしまったらどうしよう。どうしたら、どうしたら……。
「A……」
零れた声のなんとも弱々しいことか。弟達に聞かれたら、きっと幻滅されてしまうだろう。それでも感情を抑えることはできなかった。
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ユズヒ(プロフ) - 月華姫さん» お久しぶりです!お元気にしていましたか?また読んでくださったんですね!ありがとうございます!!先程ちょこっと更新しましたので、本当に少しなんですけど、ぜひお読み頂ければ嬉しいです…! (2021年9月6日 23時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
ユズヒ(プロフ) - ニケさん» コメントありがとうございますお返事大変遅くなってしまいすみません!!!一年!?前!!??本当に申し訳ないです…。気力が絶賛お亡くなりで続きを全く更新していなかったのですが、先程ちょこっと更新してきましたので、ぜひお読み頂ければと思います…! (2021年9月6日 23時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
月華姫 - お久しぶりです!久しぶりに1話から全部読みましたが世界観に、また引き込まれました!!此れからも応援しています(`・ω・´)bではまたっ♪ (2021年9月6日 16時) (レス) id: 8f77e3b2d4 (このIDを非表示/違反報告)
ニケ(プロフ) - 凄い面白いです!最後感動しました!私も何回か読み返しました!コメント遅くなってすみません。あつかましいですが、是非続きが読みたいです!応援しています! (2020年4月27日 20時) (レス) id: e4acd479d7 (このIDを非表示/違反報告)
ユズヒ(プロフ) - sioさん» コメントありがとうございます!!ひえええ読み返していただけてるとは本当に嬉しい限りです……! 最近更新できてなくてすみません…! もう少しで!更新できるかと思いますので……!! (2019年12月1日 13時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユズヒ | 作者ホームページ:
作成日時:2019年3月27日 5時