♪ ページ12
真っ白い部屋に、清潔感のあるベッド。窓の外にはイチョウの木。
その部屋に、彼女は横たわっていた。
胸の位置まで布団をかけられた少女の瞼は降りている。ベッドの側の椅子に座る医者は、扉を開けた彼に視線をやり、ああ、と口を開いた。
「思ったより、早かったね」
「寂雷さん、A、は……」
ぽつりと地面に落ちるような声で寂雷に尋ねた一郎の瞳は大きく見開かれている。ゆらゆら揺れる色違いの双眸に、医者はベッドに横たわる彼に視線を滑らせた。
「……ビルの看板が、落ちてきたらしくってね。近くの人が手を引いて、当たりはしなかったんだ。命に別状はない。けれど、目を覚まさないんだ。眠り続けている」
「目は、覚めるんですかっ」
震える声で聞くと、彼は一つ間を置いて首を横に振った。分からない、その言葉を添えて。
「っ、姉ちゃん!」
「A姉!」
後ろに立っていた弟二人が部屋に飛び込んで、姉と慕う彼女の元へ駆け寄った。名前を呼ぶ、手を握る。けれども彼女は自分には関係ないと言うように目を閉じたまま、寝息をたてるだけだった。
いつ、目を覚ますか分からない。
一週間後かもしれない。一ヶ月後かもしれない。一年後かも、十年後かも、いやそもそも。
目を覚ますかどうかも、定かではない。
ぐらり、と視界が歪んだ気がした。
身体中の血液が下に落ちる音がした。
周りの声が、耳に聞こえるだけのただの音になった。
…………もういい。知らない。私に友達がいないって思いたいんなら勝手に思っとけば?
最後に会った彼女が言った言葉が、やけに鮮明に頭に響いた。
ああ、こんなことなら。こんなことになるのなら。
早く、謝っておけばよかった。
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ユズヒ(プロフ) - 月華姫さん» お久しぶりです!お元気にしていましたか?また読んでくださったんですね!ありがとうございます!!先程ちょこっと更新しましたので、本当に少しなんですけど、ぜひお読み頂ければ嬉しいです…! (2021年9月6日 23時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
ユズヒ(プロフ) - ニケさん» コメントありがとうございますお返事大変遅くなってしまいすみません!!!一年!?前!!??本当に申し訳ないです…。気力が絶賛お亡くなりで続きを全く更新していなかったのですが、先程ちょこっと更新してきましたので、ぜひお読み頂ければと思います…! (2021年9月6日 23時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
月華姫 - お久しぶりです!久しぶりに1話から全部読みましたが世界観に、また引き込まれました!!此れからも応援しています(`・ω・´)bではまたっ♪ (2021年9月6日 16時) (レス) id: 8f77e3b2d4 (このIDを非表示/違反報告)
ニケ(プロフ) - 凄い面白いです!最後感動しました!私も何回か読み返しました!コメント遅くなってすみません。あつかましいですが、是非続きが読みたいです!応援しています! (2020年4月27日 20時) (レス) id: e4acd479d7 (このIDを非表示/違反報告)
ユズヒ(プロフ) - sioさん» コメントありがとうございます!!ひえええ読み返していただけてるとは本当に嬉しい限りです……! 最近更新できてなくてすみません…! もう少しで!更新できるかと思いますので……!! (2019年12月1日 13時) (レス) id: 717d8ad01f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユズヒ | 作者ホームページ:
作成日時:2019年3月27日 5時